古き良きものとともに「西之一色の家Ⅴ」
山々に囲まれる自然豊かなまち、岐阜県高山市。
江戸時代から続く古い町並みが今でも多く残り、歴史的な価値も高い場所です。
高山市三町 伝統的建造物群保存地区
飛騨高山 宮川朝市
新鮮な野菜、民芸品など飛騨の特産品が多く並び、人情あふれる朝市も人気。「行ってみたい観光地の地方都市」として日本一に輝いたこともあるとか。
古美術 サンガワ
切妻屋根の正面外観が印象的です。実はこの建物、サザエさんのエンディングでお馴染み、三角屋根のおうちもちょっと意識しているとか。
(左から)丸山建築、代表の丸山泰正さんと、「サンガワ」店主の三川さんご夫婦。親戚繋がり。
「家を建てるなら、兄(丸山さん)にお願いしたかった」という三川さんご夫婦。
「過去の建築作品も知っていたし、いろいろとお願いしやすいし、僕のことも知ってくれているし…他にいなかったですね」と、ご主人。
ここは、古美術「サンガワ」の店舗併用住宅として、いつか奥様とふたりで暮らすことを想定して建築されたようです。
うしろ側に…?2mもの落差。
よくみると、入口は“サザエさん家“ですが、うしろ側に建物が連なります。
もともとは奥様の実家が所有する、畑の広がる土地でした。丸山さんより「こういう変わったところの方が、おもしろいものがたつよ」とアドバイスを受け、場所はここに決めたそう。
建築の勉強をしていたこともあるというご主人は、さらに楽しみが増したようです。
造成前、農地転用する前のお写真
崖になっている部分を全て造成して高さを合わせようとすると、すごくお金がかかるということもあり、土を盛って基礎をつくったのは、あえての入口部分だけ。
「僕は見る角度で雰囲気が変わる建物が好きなんです。え、こんなだったっけ?みたいなね。お店ありきの家だったので、生活じみたものは排除しました。しかも建築好きの施主だから、ある程度の不便も受け入れられるだろうな、というのもありました。今も綺麗にお手入れして使ってくれていてうれしいな」と、丸山さん。
平面図と、建設中の上空写真
ここは、ウッドワン空間デザインアワード2024で、優秀賞を受賞された物件でもあります。
審査員長の伊東豊雄先生は「高低差を大変うまく利用されていて、高い方、低い方、十字に交差しているような特徴があるプランニングが素晴らしかった。間口の狭い切妻のエレベーション、これが非常に特徴的で綺麗」と評価されています。
まずは店舗へお邪魔します。
古美術「サンガワ」さん
外観の見た目はそのままに、中も急こう配の天井は、国産材(杉)を使用。壁はクロスの濃淡を微妙に変え、モノトーンでシックな仕上がり。店内に並ぶ、古き良きものたちともうまく馴染んでいます。
楽しい骨董品
「小道具にもジャンルがいろいろあって。母は布とか、生地系が好きだったんですが、僕は骨董品が専門です。若い子たちは、高山旅行のついでに雑貨を求めてくることが多いので、店内にはガラスやカゴ、買いやすいものを置いています」と、ご主人。
入口は可愛らしいものでも、そこから明治や江戸のもっともっと古いモノに興味をもってくれたら…と、ご主人なりの考えがあるようです。
古美術サンガワさん → こちらから
店舗から住宅へ。階段で繋がっています。
リビング
現在ご両親と一緒に暮らす自宅が別にあるので、こちらの家では、ご夫婦が店番の合間に休憩をしたり、たまに子どもたちが遊びに来たり。今のところはご主人が日中に一人で過ごすことが多いそう。
ご主人のコレクション棚
古いガラスが好き
「これは売り物でもあるのですが、コレクションには古いガラスが多いですね。江戸、明治の昔のガラスは、鉛を含んでいるので“きんきん”って音が鳴るんですよ」と、ご主人。
晩酌も…
「ガラスは雰囲気がいいですね。今、骨董業界でも酒器が流行っています。インスタ映えもしますしね。焼き物とか陶器、磁器にも多いんですけど、変わったものがほしいって方が多くて、この酒器は欲しがるかたが多いですね」
最小限の炊事場
いつか夫婦二人で住むための家なので、子供部屋などはなく、寝室、リビング、水周りのキッチンもシンプルに、必要最小限で。
大きな窓
キッチン前の窓はできるだけ大きく、景色をみながら楽しめるように…。
「今日は少し霞んでいますが、ほんとはもっと山岳がきれいにみえるんですよ、スイスかな、とおもうくらいに…」と、奥様。
そんなに力が入らないという毎日の炊事も、高山の美しい山々の景色や、すぐそこの桃の果樹園を眺めたりして、ルーティンを楽しんでいるのだとか。
ここでは珈琲をいれたり、お昼をちょこっと、作るのは麺類とか、簡単なものが多いそう。
キッチンはsu:iji スイージーNZ20 フラット ナチュラル色、ステンレスバイブレーション天板
空間にうまく馴染ませて
「スイージーは、綺麗な木のキッチン。金額的にも、そんなに高くはない。もともと僕はキッチンの設計もしていたし図面描いて企画をやっていたりもしたので、ディティールをみてしまうんですよ。つなぎ目、とりあい、扉の仕舞いとかね。一般的には、気づきにくいかもしれませんが…」
機能性と意匠性
「建築は、シンプルなほど難しいですね。なるべく、手をかけていないかのように、それっぽくつくってみせる。ここは部屋のサイズがそんなに大きくなかったので、ベニヤを使ってオリジナルの断熱材をつくったりもしました。機能性と意匠性を考えるために、シンプルだけど意外と手間がかかりましたね」と、丸山さん。
ウッドデッキ
大阪で修業を重ね、地元岐阜、高山に帰ってきてからずっと仕事が立て込んでいるという丸山さん。(合間をぬって、取材対応いただきました。感謝です)親戚でも、3年程待ってようやく家づくりが叶ったそう。
「よかったわ、帰ってきてくれて」と、奥様。
古き良き、愛するものに囲まれ、ご夫婦でゆっくりと暮らす日々が楽しみですね。
飛騨高山 冬の白川郷
(文:松岡)