『ケーブルカー』
既成概念からちょっと距離を置いて
土地の傾斜に沿って、ゆるやかにカーブして建っている家。その名も「ケーブルカー」。家の中の高低差をつなぐのは、階段ではなく長い坂道。
でもこの形は、奇をてらって生まれたものではありません。この土地の良さを生かすこと、敷地内の木を切らないこと、暮らしと土地を地続きにすることなどを大切に、ここに住む人の思いを聞き取りながら、100個を超える模型を作った中からたどり着いた形です。
「同じ土地でも、住む人が違えば違う家になります。だからこの家は、施主である久保木さんと私の共著のような存在です。」(設計/生物建築舎 藤野さん)
二人の息子さんの名前に入っている字にちなんで、「朝日と木が見える場所」を探して出会った土地。
家の中に坂があるという案を提案された時のことは、実はあまり覚えていない。「でも2階建ての家だったら階段があるわけだし、どうして坂のある家って無いんでしょうね?」(施主/久保木さん)
木の葉のざわめきと小鳥の声が心地よい、屋上のテラスにて。左から建築家の藤野さん、施主の久保木さん(と息子さん)、施工を担当した建築舎四季の小池さん。
家の中の坂道は、傾斜があるため塗ったモルタルが滑り落ちてくるのを、職人さんの技術で押し上げながら施工した。
二人の息子さんたちは、この家を思い切り楽しんでいる。坂の上から、まるで背泳ぎするように滑り降りてくるのはお気に入りの遊び。
木の質感が気に入って選んだキッチン。ここからは、高崎の街が一望できる。
「この眺めが好きで、“ここが私の場所”という感じです」という奥さま。キッチンでスツールに腰かけて一息入れるのが日課。
いつもの光景。豆乳を入れてもらう子どもたち。
カメラマンである久保木さんが撮影した一枚。朝日が家の中に反射する瞬間。
「友達が遊びに来てもびっくりしてくれる“普通じゃない”家に住んでいることは、きっと子供たちが大きくなった時に、普通ってなんだろう?別の選択肢もあるのでは?と考える土台を作ってくれる気がしています」
息子さん作「僕の家」の図
(文:松浦)