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2026.07.24

木のある暮らしにしっくり馴染む道具 #05

サウナも家具も、“生活の道具”。空間ごと「ととのう」老舗・マルニ⽊⼯のこれから。

日本の家具を世界に知らしめた、老舗家具メーカー、maruni(株式会社マルニ木工)。
1928年の創業より「工芸の工業化」をモットーに、職人の手仕事による緻密さと、現代の機械技術を融合させ、タイムレスで美しい家具を作り続ける、広島県を拠点とする会社です。

職人が徹作業で家具を作っている

2008年からスタートした「MARUNI COLLECTION」では、深澤直人さんをはじめ、世界的なデザイナーとタッグを組み、100年経っても愛され続ける普遍的な家具を提案されています。

MARUNI COLLECTION
HIROSHIMA

マルニ木工の代名詞ともいえる、深澤直人さんがデザインした「HIROSHIMA」アームチェアは、圧倒的な座り心地とデザイン性の高さから、アメリカ・シリコンバレーにあるApple本社(Apple Park)に数千脚が導入されたことでも有名。直近では、2023年5月に開催された「G7広島サミット」において、首脳会議及びワーキングランチの椅子としても採用されました。

マルニ木工の本社湯来工場の上空写真

今回はそんなマルニ木工の本拠地である、広島市佐伯区湯来町・本社湯来工場にお邪魔して、2025年9月に発売された話題の新プロダクト“国産桧材のサウナ「kupu sauna」”を中心に、木ときままに暮らす愉しさのヒントをお伺いしました。

  • 国産材サウナ「kupu sauna」(クプ サウナ)の誕生
  • 針葉樹と広葉樹について
  • 銘木・吉野桧(よしのひのき)との出会い
  • 三位一体、技術を凝縮
  • 試作品 第一号
  • 創業100周年を目前に
  • 暮らしのととのえかた

国産桧材サウナ「kupu sauna」(クプ サウナ)の誕生

国産桧材サウナ「kupu sauna」(クプ サウナ)の誕生

左から、マルニ木工 山中洋(七代目、代表取締役社長)、柳田康弘(技術開発部長)
左から、マルニ木工 山中洋(七代目、代表取締役社長)、柳田康弘(技術開発部長)

―サウナの中はいかがですか?(笑)

山中洋社長(以下、山中さん):ロウリュをすると、背中に“きたきたきたーっ”という感じがしますね。裸で体感したら、本当に気持ちが良いですよ。さらに、このあとの水風呂がやっぱり大事ですよね!

ロウリュを体験している
ロウリュを体験。

ロウリュとは..

熱したサウナストーンに水やアロマ水をかけて、極上の水蒸気を発生させ、サウナ室内の湿度と体感温度を上げるフィンランド発祥の入浴法です。

-サウナがお好きなんですね。

山中さん:サウナに入った日は本当に良く眠れるし、次の日の朝の目覚めも良くて。僕は大好きです(笑)

―木の香りも良いですね。今回のサウナ商品化は、社長の“好き”からはじまったのですか?

山中さん:それもありますが、サウナをつくったきっかけを簡単にお話しすると、とある案件でシステムエンジニアとして入ってくれた方と打ち合わせをしていた時にサウナの話になって。それがONE SAUNA※の揚松さんでした。本来の打合せそっちのけでサウナの話ですごく盛り上がって、揚松さんとだったらサウナでビジネスができるかもしれないと思い、すぐにやってみようという話になりました。

※ONE SAUNAとは…

株式会社Libertyshipが手がける国産バレルサウナブランド。
地域材を活かしたオリジナルの設計・施工を数多く手がけ、サウナが“場”としてどう作用するのかという体験設計も得意。日本各地にサウナ文化をひろげてきた。

次の日に、ではデザインをどうするか?と考えた時に思い浮かんだのがデザイナーの熊野亘さんでした。ジャスパーさんのアシスタントとして長く一緒に仕事をし、私たちとのものづくりも、人となりもよくわかっていたから安心して任せられると思いました。彼は、フィンランドに長く留学もされていたこともあって、サウナ文化にも精通している!と。

お互いの技術を掛け合わせれば、これはビジネスになるのではと、わくわくしたのを思い出します。

―偶然の出会いも重なったんですね。

山中さん:そうですね。

―いつも「場」や「空間」づくりを担っているマルニさんにとって、今回の“サウナ”はそういう新しいフィールドでの文化づくりも意識しているのですか?

山中さん:たしかにサウナって熱いけれど、人が集いますよね。フィンランドでは、大事なことはサウナで決まるというくらい、その中でコミュニケーションが生まれるものです。今の時代だからこそ、人と人とのコミュニケーションがより大切ですし、そういった場をしっかりと整えたいという思いもあります。

さらに、私たちは100年近く木工家具を作ってきた会社で、これからも木以外のものを使ってものづくりをすることは考えていないし、これからも変わらず木の魅力を伝えていく会社として全うしたい。家具は広葉樹を使用しますが、日本の森林は半分以上が針葉樹となっているので、国産針葉樹を使用した家具以外のアプローチでどのように木の魅力を伝えていけるか、それをずっと考えていた中でたどり着いたアウトプットでもありました。

針葉樹と広葉樹について

針葉樹と広葉樹

針葉樹と広葉樹の違い

針葉樹(柔らかい): 桧や松、杉など。
水や養分を通す穴が大きく、全体がスポンジのようになっているため、軽くて柔らかい。まっすぐ早く育ち、加工がしやすいので建材などに向いています。

広葉樹(硬い): オーク、ビーチ、桜など。
細胞がギュッと緻密に詰まっているため、ずっしりと重く、頑丈です。木目が美しく、硬く傷つきにくいので、家具などに向いています。

―今回あえて“国産材”そして針葉樹である“桧”という木を使うことになった経緯を教えてください。

山中さん:木工メーカーとして、人口や住宅着工件数が減っていく中で、家具だけを作っていていいのか、という思いがずっとあった中で、「G7」が一つのきっかけではありました。特注テーブルの製作依頼をいただいて、それも広島県産の桧材を使ってほしい、というのが前提でした。
実はそもそも広島には桧材はあまりないので、この時は本当に大変だったんですけれど…。

日本の家具業界事情

日本には、家具にも使える素晴らしい広葉樹の「資源」自体はたくさんあるものの、それを「山から伐り出して、家具にして、手頃な価格で届ける仕組み」が長い間ストップしています。

そのため、海外の広大な敷地で計画的に育てられ、大量生産・大量輸送のルートが確立されている海外産木材の方が、圧倒的に安く安定して質の良い原木が入手できるため、日本の家具市場の主流になりました。

しかし最近では、「せっかく日本にも良い樹木があるのだから、海外産に頼らず、地元の木で家具を作ろう」というサステナブルな取り組み(飛騨高山や北海道の家具産地など)も非常に盛り上がっています。

一方、日本の森林の約60%は針葉樹で構成されており、国産針葉樹の活用についても国としての課題となっています。

それ以来、「国産材」「針葉樹」の活用の声が周りからもどんどん強まってきました。しかし「針葉樹」は柔らかいので、なかなか家具には使えません。

もともと日本の家具業界というのは、海外からの木材調達がほとんどなんです。けれど最近は円安だったり、世界情勢も不安定。さらにウイスキー需要も高まり、質の良い材料から海外で使用されていって、値段は高いのに品質の良くない材料が日本に流れてくる…。

このまま海外から木材を仕入れて家具を作り続けられるのか?ずっと懸念事項でした。

―そんな背景も加味された商品開発だったんですね。

山中さん:ご存知の通り、日本国内に針葉樹はたくさんあるんです。家具にはできないけれど、100年近く培った木工技術を使って、針葉樹でなにかできないか、ずっと考えていました。そんな時に、たまたま良い出会いが重なりました。

銘木・吉野桧(よしのひのき)との出会い

銘木・吉野桧(よしのひのき)

―木材の選定はどのようにされたのですか?

山中さん:フィンランドでサウナ材として使われるハーパー(アスペン)に近い特性があって、針葉樹の中でも硬さがあって比重も近いのが「桧」でした。そこで国内で木の仕入れ先を選定している中で出会ったのが、奈良県の吉野桧でした。

吉野桧は、産地が名称になるほど認知もされていて、もともとかなりこだわって育てられていることは有名ですよね。作り手の彼らも、これまでは建材として材木市場にしか卸すことがなかったと思うので「自分たちが手塩にかけて育てた木がどういうかたちで使われるのか分かりやすく見える」とすごく喜んでくれています。今回直接取引させてもらえることになって、一緒にやれて本当によかったな、と思っています。

銘木・吉野桧(よしのひのき)とは…

奈良県吉野地方で500年以上受け継がれる伝統的な手法で育てられた高級木材。じっくりと時間をかけて育つことで生まれる「均一で細やかな年輪」と「淡く上品な色合い」、そして「高い耐久性」を備え、時を経るごとに味わいと美しさを増していきます。

―もう初期段階から桧材を使おうと思っていたのですか?

山中さん:商品開発のコストももちろん大事だけれど、“安いものをうまく使う”という視点からは入ってはいなくて、材料は厳選したい、という想いが最初からありました。

なんといってもやっぱり桧は香りもいいですしね。

三位一体、技術を凝縮

桧のサウナ部屋

―サウナの商品開発を始めると聞いた時、社内は「シーン」となったというお話を噂でお伺いしましたが(笑)実際のところは、どうだったんですか?

柳田康弘部長(以下、柳田さん):たしかに“サウナ”なんて、これまでに作ったことはないし、最初は本当にやるの?できるのか?と思っていましたよ(笑)

だけれど、どうやって作っていこうか、“いい題材が舞い込んできたな”と感じましたね。だんだん楽しくなってきたことを思い出します。

「家具」の領域を越えたはじめてのサウナづくり

山中さん:私たちの会社は、ものづくりの好きな人が多いですね。だから、サウナという新しくやったことないものにチャレンジしよう。とお題があれば、やってくれるんじゃないかって思っていましたね。たぶん、そうやって興味を持った人はいっぱいいたんじゃないかな。

実はこのあともミーティングがあるんですけれど、若いメンバーに、“ものづくりについて考える場を提供しよう”、と二人で考えていて。会社のビジネス、DNAを継承していきたいから、いろんな試験や挑戦をしてもらって、その報告をもらえると、未来に期待がもてるんですよ。

―いいですね。では、これまでの「家具」の領域を越えたはじめてのサウナづくりも、あまり心配することはなかったんですね。

山中さん:そうですね。最初はわからないなりにもやり続けたら、技術もあるし、かたちにはなるだろうな、と思っていました。

そうは言ってもサウナは「ハコ」「小屋」なので、家具に比べると難易度は低いのではないか、かたちにはできるのでは、と思っていましたね。

―「kupu sauna」をつくる上で、こだわった点を教えてください。

山中さん:サウナは、みんな裸や水着で入るので、服を着ている時よりも敏感になりますよね。そんなに長くいる空間ではないけれど、触り心地・座り心地はすごく大事です。それが心地よさに繋がりますから。座る部分や触れる部分は、やさしいアールをとる(曲線に仕上げる)とか。これは家具作りで普段からやっていること。

デザイナーも私たちも家具で培ったノウハウがあるので、当然ここはこの形だよねとか、当たり前のような感覚で話がすすんでいった気がします。

椅子は座り心地がいいのが大前提。でも座ってない時の佇まいがノイズにならないとか、空間の中に溶け込むとか、その感覚はサウナにも応用されていると思いましたね。かっこいいだけではなく、当然ちゃんとした機能も担保しなきゃいけない。

柳田さん:マルニ木工、デザイナー、ONE SAUNA…三位一体になって技術を凝縮できたかなと思っています。とくにぶつかり合うこともなく、それぞれ専門分野として、プロフェッショナルなアイデアを出し合い、相乗効果となりました。

建築では5㎜10㎜、図面通りにいかないこともある一方で、家具のものづくり視点からいうと、いつもコンマ何㎜の世界が当たり前です。そういうマインドは根付いているので、どんな要求でも応えることができたという自信はあります。

屋外にある桧のサウナ

柳田さん:ただ桧は本当に(木が)動きますね。実験もかねて今は外に置いているんですけれど、昨日雨がふっちゃって。できたてをご覧になっていただきたかったです(笑)

試作品 第一号

試作品 第一号

柳田さん:ちなみにここに設置しているのは、試作第一号です。あの深澤直人さんにも認められた、当社でもいちばんの職人が製作しました。「はじめてつくるので、お願いしてもいいですか?」と頼んだら、まさに寡黙に真摯につくってくれました。

山中さん:安心感あるよね。

桧のサウナ

柳田さん:マイスターというか。先の先がみえるんでしょうね。図面上で表現されていないこともやっていたりするんです。たとえば、木を組む本核(ほんざね)の嵌合(かんごう)度合いがかなり深かったり。正直、“量産”の観点から考えるとより難易度があがるし、組みにくくなるものだけれど、ここは職人の正確さがあるからこそできているんだと思いました。

創業100周年を目前に

マルニ木工は、2028年に創業100周年を迎える

山中さん:マルニ木工は、2028年に創業100周年を迎えます。将来的には、このサウナも社員食堂もきちんと整えて、地域に開放できればいいなという大きな構想があります。工場の人達には、作業中はなかなか話しかけづらかったりするけれど、サウナだと、くだけた話もできそうな気がしますよね。

湯来町には温泉もあるので、そこのお湯をなんとかひっぱって大浴場もつくって…。美味しいごはんも提供して…。夢がふくらみます。

―いいですね!

山中さん:こういうことを考えるようになったのは社長になってからですが、この湯来工場は山奥の田舎でコンビニも遠いし、ごはんを食べるところもあまりなくて。僕自身は出張も多いし本社にいないことも多いけれど、ここで毎日働く社員は、ずっとここに通うわけだから。食堂のごはんが美味しいとテンションあがるじゃないですか。豚汁とか温かい汁ものがお昼に食べられると幸せになりますよね。

帽子をかぶっている人

柳田さん:そうですね。会社にくる楽しみがもっと増えたら、やっぱり毎日違うんだろうなって思いますね。

社長は本当に熱い方なんです。社長になられてすぐはわかりませんでしたが、社長のやりたいことは、「みんなのためにやりたいこと」ということがだんだん伝わってきたので、やっぱりそれについて行かなきゃな、と思いましたね。

暮らしのととのえかた

―こんなに大きなプロダクトにも、職人の手仕事による緻密さが潜んでいることを知って、じっくり見入ってしまいますね。マルニさんは、このような商品を通じて、暮らしにどのような価値を提供していきたいとお考えですか?

山中さん:そんなに大きなことは考えていないです(笑)

家具もサウナも、“生活の道具”なんですよね。それが主人公である必要は全くない。それを使って集う空間で、コミュニケーションが活発になるとか場が和むとかお酒が美味しいとか…そんな身近な幸せをこれからも提供していきたいですね。そんな時に、デザインで主張する必要はないし、トレンドを追う必要もない。それよりも、ノイズとかストレスにならない、空間に寄り添ってふつうに存在することが重要。その方が結局長く愛されますから。

木のエイジングも、唯一無二の魅力です。“経年劣化”とかいう人もいますが、木を使いたい人は、そこも含めて愛してほしいですね。使い込むほどに味わいが出ますし、少し整えてあげるだけでさらに何十年も使えるので、それは究極のサステナブルだと思っています。

木のキッチンsu:iji
~桧~ 木のキッチン su:iji

-そうですね。私たちウッドワンのつくっている木のキッチンも、同じような考えかたがあります。使いながら出てくる傷や汚れは生きた証として受け止めて、ともに永く暮らしてほしい。毎日使うものだから、その場所に立った時に、料理しようかな、ってパワーが湧いてくるような存在でもありたいですね。(池岡)

対話している

―これからどんな人に使っていただけるのかも楽しみですね。

山中さん:サウナは個人でのニーズも高まっていますよね。

サウナも家具も暮らしを豊かにしてくれる道具として親和性があると思っています。ですので、私たちの家具と合わせてサウナも愛してくれると嬉しいです。

株式会社マルニ木工のみなさまと、ウッドワン商品企画室 池岡(左)
株式会社マルニ木工のみなさまと、ウッドワン商品企画室 池岡(左)

山中さん:サウナは発売からまだ1年ほどで、まだまだわからないことも多いのですが、国産のサウナメーカーはほとんどなく、どちらかというとビルトインタイプや、空間設計で組み込むような、建築寄りのものが多い印象です。デザインや座り心地、触り心地の視点はほぼなかったので、逆に後発の私たちからすると優位だと思っています。“家具メーカーが本気で作ったサウナ”という切り口は、今までにないアプローチだと…。

桧のサウナ内での対話

まだまだ新参者だし、私たちにとっても新ジャンルなので、トップ営業として僕が売るしかない!と思っています。
いちばんは、体験・体感してもらうことにつきるので。だからこの場所に興味のある人をお呼びして、見て触って感じてもらいたいですね。

―きままな暮らし、文化の広がりが楽しみです。今日はありがとうございました!

株式会社マルニ木工のみなさまと、ウッドワン商品企画室 池岡(左)
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<取材協力>

株式会社マルニ木工

株式会社マルニ木工