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Lifestyle

2024.05.02

花から食卓まで、四季の植物と綴る日々 #05

自宅レッスンと花のある暮らし

こんにちは、フラワー&グリーンスタイリストのさとうゆみこです。

新緑が美しい季節となりましたね。花も咲き始めガーデニングや切り花など植物の暮らしに心躍る季節ではないでしょうか。
今回はリクエストもありまして、自宅のフラワーレッスンや切り花についてお話ししようと思っております。少しでも花と暮らすヒントになれば幸いです。

自宅レッスンを始めるまで

レッスンやワークショップをやるようになってかれこれ20年以上が経ちます。スタイリング、庭作り、制作、販売と植物のことを幅広くやってきましたが、年齢を重ねるにしたがって、自分のペースで行うことができて、若輩ながら私なりのこれまでの経験を伝えていくスタイルはいつしか大切な仕事として、暮らしの一部にもなっているような気がします。

思い起こせば、まだ娘が幼いころ、ベビーカーに乗せて一緒に行っていた近所のカフェで「花のワークショップをやってみない?」と知人から声をかけられたことがきっかけで、ワークショップを不定期で開催するようになりました。それまで、フラワーショップ、インテリアショップに勤務し、そこでワークショップの開催と、専門学校の講師もやった経験があったおかげでなんとか始めることはできましたが、当時は生徒さんを集めるのも大変でしたね。

その後、様々な場所でワークショップを開催させていただくうちに、少しずつ人数も集まるようになってきました。最初は知人やそのご紹介の方が参加してくださったり、その後一緒にワークショップを企画してくださる方もいたり、いろんな方のおかげでここまでやって来られたのだと思います。

そのような中、ある時、切り花だけでなく、寄せ植えなど「土」を扱うレッスンもやってみたいなと思い、当時はどの開催場所も土で汚すことができなかったため、やむなく自宅でやってみようとおもったのが「自宅レッスン」の始まりです。

(新緑が出始めたばかりのベランダの植物たち)

「家族」と「レッスン」

お花だけでなくお料理やクラフトワークなど、自宅でレッスンをされている方は多いと思いますが自宅でのレッスンで何が大変かといいますと、その家に住む家族や同居人の理解、協力を得ることだと思います。家は自分だけのものではないので、レッスンを開催する環境を作る(要するに片付けですね、笑)ことは毎回の大事な仕事となります。

自宅でレッスンを始めるにあたって、「こんな日常的な空間に来てくれるかしら」と初めは不安でしたが、「暮らしの中での植物の取り入れ方が現実的で分かりやすい」「先生らしさがあってほっとする」など温かいお言葉を頂きながら、少しずつ自信を持ちながらスタートすることができました。

私らしさのあるレッスンへ

私のレッスンは切り花をメインにはしていますが、なるべくいろんなアプローチから植物に親しむことができるように考えてきました。例えば、観葉植物やハーブ、草花の土を使った寄せ植えや、一つの植物やテーマに特化した育て方などのレクチャーもの、リースや正月飾りのような工作ものなどさまざま。「私たちの身の回りはすべて植物でできている」といつも言う通り、衣食住、植物はすべてにつながっているので、積極的にいろんな話題に繋げるようにしています。

植物の日々の営み、季節の移り変わり、土や根、その周りを囲む生き物すべて。私たちは物理的なものだけでなく、精神的な恩恵も受けています。装飾だけでなく、もっと広く、深い観点で植物の魅力を紹介していきたいですね。

自然を思いやりながら自然を楽しむ

花を活けたり、ガーデニングで癒されたりして自然の恩恵を受けているのなら、環境問題も積極的に意識していきたいものです。レッスンではフローラルフォーム(※)は一切使っていません。自宅で楽しむのには花瓶で十分。水替えや切り戻し(※)もできるし、残った緑色のフォームの残骸の処理をするストレスもありません。幸い小さな庭もあるので、レッスン中に出た残渣(ざんさ)も自治体のゴミに出さずに堆肥にリサイクルすることができています。

※フローラルフォームとは…生花を固定する土台として使われる緑色の固形物。フェノール樹脂やポリウレタンを原料として作られる。吸水して使用されるが、使用後の水分を含んだフォーム、水分を絞った際の多量のマイクロプラスチックが懸念される。

※切り戻しとは…生花において、水替えをする際に茎を1、2cm切ることで、茎の断面が新しくなり、水を吸いやすくなる。切り口に付着したバクテリアも除かれる効果も。

(レッスン残渣からできた堆肥を使ってレタスを種まきしたポット。生徒さんに見て触ってもらいました)

ある生徒さんは家から持ってきたTシャツの端切れ、使わなくなった紙ナプキンを花材の切り口に包んで吸水用のペーパー代わりに利用してくれたり、包装紙をリサイクルして使ってくれたりするなど、逆に私も刺激を受けています。でも、あくまでも無理をせずに、できたらうれしいぐらいでいいとする、決して周りに強要しないことが大切です。人は価値観や暮らし方が様々。できるときもあれば、できないときもある、の繰り返しで良いと思っていて、「こんな考えもあるのね」と、お互いにいろんな考えをシェアし合えることに意味があると思っています。

(ちょっとしたときにすぐ使えるようにテーブルの下には新聞紙を常備)

レッスンの準備風景

レッスンの花材は基本的に前日に市場で仕入れます。仕入れた後すぐに水揚げ作業をして、レッスンを行うのはその翌日となります。

仕入れの日の朝は3時に起床。6時前後に家に戻り、まずは家族のお弁当(3人分)を作り、朝ご飯を用意します。前日に用意しておいたレッスン用のテーブルとその上には水を入れた沢山のバケツ。朝の家事と並行しながら、大量のお花を水揚げ(※)していきます。

そして、レッスン当日の朝は時間勝負。いつものようにお弁当、朝ご飯で家族を送り出した後、急いでレッスンの準備にかかります。今週のレッスンおやつはタルトだったので、まずはタルトを焼き始めます。お菓子は前日に作るのが通常ですが、タルトだけはサクサク感が大切なので前日に下準備をしておいて当日の朝に焼きます。このレッスン当日の朝の慌ただしいことといったら。前日にやればよかったことを悔やみながら(笑)、家族の散らかした物を迅速にさばき、頭と体をフルに使って進めていきます。ここは自宅レッスンの大変なところですね。

※水揚げとは…流通を経てきた花を花瓶に生ける前に、一旦瑞々しくさせるための作業。花の種類や状態によって方法が異なる。「水切り」、「湯揚げ」、「焼く」、「割る」、「たたく」、「薬剤を使う」などさまざま。

(水揚げされた花材がたくさん並ぶ)
(テーブルが整い、お菓子が焼けるとひと安心)

今週は初夏の花

今週は初夏の花がテーマでブーケを作りました。バラの花を中心に新緑や草花をたっぷり入れて仕立てていきます。

(パスタをねじったようなスパイラルの形状で束ねるのがブーケの基本)

珍しくラッピングもしてギフト仕様にしてみました。自宅用なので必要のないことですが、いろんなことを経験してほしいという意味で特別にやってみました。

(やり直しがきかないペーパー使いは意外と難しい)

共通点は植物好き

レッスン後はゆっくりとティータイム。今日のレッスンのこと、最近のことなどみんなで語り合う本当に楽しい時間です。年齢、性格、家族構成、仕事など、いろんな違いを持つ多様な方たちが「植物好き」という共通点をもって集まっています。初級者、上級者の技術的なスキルは全く関係ありません。日々の暮らしを大切にし、純粋に植物に興味を持つ者同士が時間を共にする場所。私自身もそこに居ることができて幸せです。

(以前の投稿でご紹介した楽しいお茶の時間。この日はバナナのタルトでした)

身の回りの自然に目を凝らすことの面白さ

レッスンの日、たくさんの花材が部屋中に溢れているなか、お茶の時間のテーブルに置く花は華美にしないようにしています。主役はお茶と手作りの焼き菓子。狭い我が家のリビングは花少なめで心地よいのです。ただし、季節の旬の花にすることは忘れずに。なるべく庭や畑から摘んできたものをしつらえるようにしています。楚々とした小さな命に皆が目を細めるひととき。身近な自然の変化、そしてその姿、形に目を凝らすといろんな面白さが見えてきます。

(旬の花を小さくさりげなく。話題の一つにもなります。庭や畑からもってくることが多い)
(別日は白山吹だけでシンプルに)

お家に花を

花を活けることは慣れない人にとってはとても難しく感じると思います。今回は花合わせのヒントを一つご紹介しましょう。

まず、花合わせに自信が無い場合は、一種だけ選んでみてください。

(バラをさっと入れただけで素敵)

こればバラですが、どんな草花でもよいです。一種選んで、水に浸からないように下葉を取り除き花器に入れるだけ。
少々バランスが悪くてもなんとか様になるものです。

花器はどのようなものがいいのか悩まれる方が多いですが、初めて買うなら、写真のような口が直径10cm前後、高さ20cm前後のものがおすすめ。あとは場所や好みの花活けに応じて買い足していくといいでしょう。口が広いと一本からふっくらとしたブーケまで幅広く使えます。一本や本数が少ない場合はこのバラのように口のどこかに傾けて配置してみてくださいね。

慣れてきて、もう一種入れてみたくなったら、何か葉物を合わせてみましょう。どんな花でも葉っぱがあるだけで自然とまとまりますね。特に今の新緑の季節はより爽やかさが加わっていいものです。

(新緑がみずみずしい山吹の葉)

さあ、さらにレベルアップ。もう一つ脇役になるような花を選んでみましょう。3種混ぜることができたら上出来です。初めは同色系を選ぶと間違いありません。

(星形が愛らしいアストランティアを脇役にしてみました)

さらに合わせてみましょう。やわらかくボリュームを付けてみたり、アクセントになるような色や形を入れみたりするのもいいですね。

高さやバランスについてですが、今回の花器の場合は、そんなに高さが無いので花器の口の上に花がある状態から、花器の高さの二倍くらいまでが適当でしょう。あまり長すぎると花瓶ごと倒れてしまいますので注意してください。花と花器の比率について決まりはなく、花器の大きさや形、花のフォルム、置く場所によって大きく変わってきます。

(グリーンの「ビバーナム・スノーボール」にパープルの「クレマチス」)

どうでしょう。この4つの花活け。どれもお部屋に飾るのに十分素敵だと思いませんか。あまり難しく考えることはありません。まずは自分が好きなお花を選んでみてください。たくさんの種類がありすぎて迷ってしまう場合はその時の“旬の花”がおすすめです。お花屋さんに聞けば喜んで教えてくれます。

花はたくさん種類があって、枝ぶりや花、葉の形にも個体差があり、同じお花や花合わせは二度とありません。毎回「一期一会」なのです。やがて花は枯れ、また新たな出会いを繰り返す。長く育てていくガーデニングとはまた違った面白さがあります。買ってすぐに取り入れられ、気軽に楽しめるのが切り花の良さなので、植物を愉しむための入り口として是非花活けをやってみてほしいと思います。

贅沢な時間

「お花、見においでよ~」
と、近所のお花の先輩が声をかけてくれたので遊びに行きました。都心の住宅街というのに、野菜畑と共に季節の木々や草花がのどかに溢れています。

葉が萌え出てきて、ちょうど花が付き始めた美しい時期。惜しみなくたくさんのお花を切ってくださいました。

摘んだばかりの季節の花をこうやって楽しめるのは最高に贅沢な時間です。

(野菜畑の横で「なでしこ」や「矢車草」が一気につぼみを付かせる)
(半日陰で優しく開き始める「チョウジソウ」。切るのがもったいないくらい)
(早速、水揚げして花器にしつらえました)
(季節の花同士は相性が良い。料理とよく似ていますね)

これからも

試行錯誤で続けてきたレッスンも、おかげさまで今ではいつも満席のレッスンとなりました。これまでたくさんの困難もありましたがこうやって続けてこられたのも、長い間通ってくださる生徒さん、そして家族の協力のおかげです。

私は良くも悪くも仕事とプライベートが一緒になっているタイプで、子育てしながら自分で楽しんでいる暮らしそのままが仕事となりました。辛いこともあり投げ出したいこともあるけれど、私はやっぱりこのことをとても幸せに感じています。これからもまだまだ勉強していきたいし、自分の発見したこと、好きなことをこれからも皆さんとたくさん共有していきたいですね。

(レッスン後は残った花をゆっくり愉しみます)

フラワー&グリーンスタイリスト
さとうゆみこさん
「green & knot」を主宰。フラワーショップやインテリアショップ、専門学校の講師を経て、現在はフラワーコーディネイトやグリーンアドバイザーのほか、植物にまつわるあらゆるジャンルで活躍している。自宅で行なっているフラワーレッスンも人気。

Instagram:@yumikosatooo yumikosatooo


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