Ki-mama Ki-Mama

Lifestyle

2023.11.10

花から食卓まで、四季の植物と綴る日々 #3

秋の実りとレッスンおやつ

こんにちは、フラワー&グリーンスタイリストのさとうゆみこです。

待ちわびた季節到来

記録的猛暑に翻弄された夏を後にして、やっと待ちわびた季節がやってきました。
夏野菜は片付けを始め、一気に秋冬野菜に切り替わります。キャベツやブロッコリーは大きく葉を広げ、菜っ葉類もぐんぐんと茂り始めています。
今年の夏は雨不足に悩まされたからか、秋の到来がこれほどうれしい年はありませんでした。

《畑の横に大きく育つザクロ。少し手折ってガラス器に活けました。秋らしい果実。花にも負けない美しさです》

秋初めはサツマイモ

秋の収穫といえば、やっぱりこれでしょう。

サツマイモは毎年、どんな出来か、試し掘りするのにドキドキします。というのも、花が咲いてそれが実になってと、徐々に生長していく姿を目視できるトマトなどの作物と違って、地下の作物は目に見えないので、掘るまで全く予想がつきません。地上の葉がいくら立派に茂っても、「つるボケ」といって葉っぱばかりに栄養が行って、肝心なイモの部分は全然大きくなっていないというのもサツマイモ栽培ではよくある話です。

さて、葉っぱを刈り取り、化石の発掘のようにそっと土をどけてみると鮮やかな赤いお芋が次々と顔を出してきました!今年は小ぶりだけど数はたくさん!

昨年のイモから今年のイモへ

品種は「シルクスイート」。昨年収穫したシルクスイートを親芋にして、今年の春に芽出しして、その伸びたツルを切って植え付けたものです。大半の方が、販売されているツルを使う中、少し手間はかかりますがこうやってサツマイモはイモを取っておけば、次の年に前年のイモをつないでいくことができるのです。

《新聞紙にくるんで保管》

保管方法については、収穫したサツマイモを数日干した後、新聞紙でくるんで段ボール箱に。室内で来春まで貯蔵することができます。サツマイモは寒さに弱く貯蔵適温は13~16度。それ以下では寒さで傷んでしまい、それ以上だと芽を出してしまい味が落ちてしまいます。一昨年は残念ながら寒さで半分近く傷んでしまいました。でも昨年は上手くいき、5月まで美味しく食べることができました。

一つ前の年にイモから出たツルをつないで、自分の手で一年間手塩にかけて育てたお芋。それはそれは可愛いものです。それが最後まで無駄なく頂けたというだけでとても感慨深いものがありますね。

畑一の豊作

もう一つ別のお野菜をご紹介しましょう。

6月に種をまいて畑に3株定植しました。ちなみに、右横に見えるのはニンジンの葉っぱです。

立てておいた支柱とひもに、ぐんぐんとツルを伸ばして絡み始めました。右隣のニンジンにもツルを絡ませ始めたので、こちらは急いで全部収穫。笑
さあ夏の終わりにはこんな姿になりました。奥の高いところがもともと植えてあった支柱のところで、手前のこんもりしたところはもともとナスとバジルが植えてある畝(うね)。最後は全部にかぶさるように覆いつくしてしまいました。
葉っぱの下を覗いてみると、たくさんの実がついています。
これ何だかわかりますか。
なんと長~いカボチャ、「鶴首カボチャ」といいます。
大きいもので長さ50cm、鶴の首をしたようなユニークな形で、日本で古くから作られてきた品種なのだそう。緑色から、完熟すると次第にベージュ色に変わっていきます。

大切な種がつながって

《昨年送っていただいた鶴首カボチャ。梱包材を使って丁寧に包まれ、美しい色合いにもうっとり》

ホクホク系の西洋カボチャに比べて、こちらはねっとり系の日本カボチャ。ねっとり系はポタージュにしたり、素揚げやローストするととっても美味しい。きめ細かな舌触りで、ホクホク系とは違った魅力があります。

私はこれまで「バターナッツカボチャ」という、これより短い形で似た食感のカボチャを育てていましたが、今年はこの鶴首カボチャに挑戦。早速食べた後の種をとっておき、今年の春に種をまいてみました。

《昨年作ったバターナッツカボチャ。ポタージュに使われるカボチャとして知られています。》

鶴首カボチャは固定種(※)なので、採れた種をまけば同じものを収穫することができるのです。上手くできるか心配でしたが、なんと、わずか3株から40個近くのカボチャが実りました。生徒さんから強健で旺盛だと聞いていたけれどさすがに驚きますね。

※固定種

自家採種を繰り返し、親と同じ形質が固定された種。栽培する自分も自家採種で種採りしていくことが魅力。昔ながらの伝統野菜などの在来種も固定種の一つ。

レッスンおやつ

私は毎月自宅で花や緑のレッスンを開催しています。切花を花器やブーケにしつらえるフラワーレッスンがメインですが、植物苗を寄せ植えたりして土を扱うこともあります。

レッスン後にはテーブルを囲んでみんなでお茶を頂くのですが、毎回ケーキは私が手作り。時には、レッスン前に「今日のケーキは何かなと電車の中で考えていました!」「前回お休みしたのであのケーキが食べられなかった!」というようなお声もあり、皆さんとても楽しみにしてくださっているのが本当にうれしい。

思い起こせば、レッスンのお菓子を作り続けて10年以上たちます。自宅で始めた頃、ケーキはよそで購入していましたが、元々なんでも作ることが大好きな私。「レッスンの雰囲気に合わせた自分らしいお菓子を食べてほしい」という思いから、普段家族に作っている素朴な焼き菓子を出すようになりました。初めはこんな感じで良いのかしらと心配でしたが、今ではこの「レッスンおやつ」は植物と食事、季節、私らしさをつないでくれる大切な存在となりました。

シルクスイートのタルト

今年はシルクスイートがたくさん採れたので、レッスンおやつは秋らしい私の大好きなタルトを焼くことに。

サツマイモといえば、収穫したばかりよりも数週間保存しておいたほうがお芋が甘くなるといわれますが、シルクスイートや紅はるかはもともと甘みが強いからか、採ってすぐでもとっても甘く美味しいと感じています。といっても、実は今回は置いておく時間が無かったというのが正直なところですが。笑

《タルトは当然、焼くのは当日!前日ではタルトのサクサク感が失われてしまいます。》
《甘みたっぷり、そしてしっとりとしたサツマイモとサクサク生地のコントラストがたまりません。》
トップにはスパイスがほんのり香る香ばしいクランブルを乗せて焼きました。「畑のお芋を食べてもらいたい」という気持ちから、お芋は皮つきで大きめにカット。なので、初めの数口はお芋を丸ごと食べているような感じ、後のほうはサクサクしたバターの利いた洋菓子感を楽しんでもらえるように考えました。

鶴首カボチャのチーズケーキ

4年前から秋にお出しするようになったカボチャのチーズケーキ。中は少しとろりとするような硬さに仕上げ、下部にカボチャ餡を敷き詰めた楽しい触感が皆さんに好評です。毎年、購入した西洋カボチャで作っていたのですが、今年はこの鶴首カボチャで作ってみました。

《大きな鍋で鍋に入るようにカットしたカボチャを蒸します。》
《高温で短時間焼いて、中はゆるい焼き上がりにとどめます。》

中心をとろりとやわらかい触感にすることで、チーズやカボチャのモサモサ感を緩和して、最後までするっと食べることができます。下のほうに敷き詰めたクッキー生地と甘いカボチャ餡もあり、食べる部分によって変わる食感や味わいが楽しい。

《一晩冷蔵庫に入れてしっかり冷やします。》
《翌日、食べる直前にカットすると中心部分はとろりとした触感。下部分はクッキー生地とカボチャ餡》
《仕上げには生クリームをのせて、さらにクリーミー。》

苦戦したオリジナルレシピ

ちなみに、レッスンおやつは私のオリジナルレシピです。

花やグリーンのレッスンがメインですので、全体の準備が忙しい中で、簡単で、作りやすい配分で、美味しく、そして、私のレッスン内容にかすかにリンクするようなイメージになるようにレシピを作ってきました。

もともと、料理は好きでしたし、やり始めたらとことんこだわる凝り性。素材の性質や配分、焼く温度で様々な仕上がりとなる化学実験のようなお菓子作りは、普段の食事作りとは違った面白さがあります。それでも、初めは何度も思うようにならなくて、レッスン間近になると夜中に涙がこぼれた日々もあったほど苦労しました。レッスンでは早朝の花の仕入れもあったり、準備だけでも忙しいのに、直接レッスンに関係ない手作りお菓子にこだわり続ける自分に腹が立つときもあったかな。笑

今では懐かしい思い出です。

あと、やっぱりお菓子やケーキって植物でできているでしょう。植物と食べ物、動物、土、水、人間・・・と花を活けつつ、いろんなつながりを皆さんに体感してもらうことができているような気がしています。

レッスン風景

ここで、少し普段のレッスンの様子をご紹介しましょう。

《作業テーブル。花器やリネンを並べて準備します。》
《この日は花選びレッスン。一人ひとり自分で花の組み合わせを考えていきます。》

自分で育てた野菜がみんなを笑顔に

手作り大好きの私には、自分の畑で育てた作物でお菓子を作り、テーブルを囲めるなんて夢のようなことです。しかも、昨年の種からつないでいくなんて、普段から私が夢中に試行錯誤していること、「循環する暮らし」そのものです。

《花を活けて、食べて、感じたことを話していきたい。もちろん関係ないこともok!笑》

もちろん、生徒さん40~50人分のおやつとなると、ある程度の量が必要になるので、素材がたくさん収穫できた時でないと実現できません。東京の隅っこですが、小さな貸農園ではやれることは限られてきます。昨年は、収穫したニンジンでキャロットケーキをレッスンおやつに出すことができましたが、たとえば、春に作るイチゴのお菓子を自家栽培のイチゴで賄おうとおもうと大きな温室がないと到底無理なのです。

だから、全てを賄うとか、完璧をもとめるのでなく、自己満足程度でもいい。無理なく自然にやれることをやれればいいな、数パーセントでも近づけばうれしい、と気軽に考えています。

レッスンは主に切り花がメインですが、畑や暮らしのグリーンのこと、食べ物のことをお話ししたり、時には野菜の種やジャガイモの種イモを希望者に持って帰ってもらったりして、植物のことをいろんな角度で感じてもらうようにしています。「装飾」としての花だけでなく、本来土と共に生きている「植物」、さらに広げると「生物」としてどんなものなのかということをシェアして植物との暮らしを楽しんでほしいのです。

《みんなが食べるサツマイモがどうやってできたのか。レッスン中に、もととなったマザープラント※ であるイモを見ていただきました。一見、観葉植物のようですね。》

※マザープラント

次世代のために採種されたり、挿し木を採ったりする選ばれた植物のこと。

さて、私にとっての循環する暮らしとはどんなものなのか。次回は、その中でも一番身近な「コンポスト」のお話をさせていただこうと思っています。

フラワー&グリーンスタイリスト
さとうゆみこさん
「green & knot」を主宰。フラワーショップやインテリアショップ、専門学校の講師を経て、現在はフラワーコーディネイトやグリーンアドバイザーのほか、植物にまつわるあらゆるジャンルで活躍している。自宅で行なっているフラワーレッスンも人気。

Instagram:@yumikosatooo yumikosatooo


Related Posts