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「土田の民家」器とお料理と。

美術大学出身の大森さんご夫婦。在学中、デザインの勉強をしていたというご主人は、専攻の傍らで何気なくはじめたという陶芸にどっぷりはまり、その道へのめり込んでいったそう。本格的に陶芸を学ぶため、岐阜県多治見市近郊で15年ほど暮らしたのち、奥様の実家もある岡山に家族でお引越しをされました。

今や暮らしの中心となっている陶芸、それに家族の思い描く暮らしを融合し、古民家をリノベーションされました。
ここは「土田の民家 陶芸家のアトリエを併設した古民家の改修」として、ウッドワン空間デザインアワード2023リフォーム・リノベーション部門で竹田真志さん(raumus)が優秀賞を受賞された物件です。

岡山の土田という拠点で、暮らしの形を変え、新たにスタートする一家をお尋ねしました。

農家さんのための住まい

茅葺き屋根の上に、金属板が葺かれるという特徴的な家屋。もともとここは農家さんの住まいだったそう。周辺には同様の古民家が点在します。

玄関土間

玄関を入ると、高い天井の空間が広がります。
土間部分は土足のまま入れるアトリエ兼ギャラリースペースです。

ここで、作品の仕上げを行います。

気になる長女。

作業をしていると、覗き込みにくる長女のきみちゃん(年長さん)。
「作品や工房をみてみたいという方をお通しできる場が欲しかったので、いつでも作品を展示しておける棚と商談スペースを竹田くんに要望としてお伝えしました」と、ご主人。

棚には作品がずらりと並びます。

地域の文化展などで、展示出品をした際に、そこで見た近所の人が買いに来てくれることもあるようです。

大森さんInstagramはこちら

4人家族

東京の美術大学で出会い、ご結婚されたという大森さんご夫婦。現在は小学校4年生の兄と年長の妹、お子さん2人の4人家族です。
「主人とは大学1年生の時から知り合いなので、人生の半分以上一緒にいますね。大学時代の友人は今でも仲がよくて、東京からわざわざ岡山まで遊びにきてくれます」と、奥様。

この家の改修をお願いした竹田さんも、大学時代に仲の良かった友人の旦那様という繋がり。

大空間のLDK

「ここは古民家というより、ただの古い家でした。どうやったら住めるのか想像がつかなくて。この家は父が探してくれたんですが、まず最初はどうやってリフォームするか自分たちでも考えたし、地元で腕のいい大工さんに相談したりもしました。だけど途中でもう限界だなっておもったんです」

「窓ガラス一つとっても、竹田さんが二重窓をすすめてくれたり、助成金とかも探してくださって。相談できる友人がいて本当によかった」

もともとは田の字型に仕切られていた壁が取り払われ、大空間のLDKが広がります。閉塞感があったという天井も抜かれ、さらに床のレベルも少し下げられ、天井は頂部で床から4mにもなるそう。

自家製梅シロップで、炭酸ジュースを作ってくれた長男のはるたくん。

引っ越したきっかけ

家族4人、ちょっと狭い空間に住んでいたのがずっと気がかりだったというご主人。奥様の実家もある岡山には「いつか住みたいね」とずっと話をしていたそう。上の子の小学校入学という節目もあり、それが拠点を動かすきっかけとなったようです。

コミュニティ

「幸い陶芸の仕事自体は場所を選ぶものじゃないんです。意外と各地に粘土屋さんがあるので、材料はどこでも手に入りますし、作品を焼く窯も移動することができます。ただ、陶芸の仲間がたくさんいる環境ではないのでそういった点では少し寂しさもありますが、徐々に岡山でのコミュニティも出来てきて、少しずつ土地になじんできたなと感じています」と、ご主人。

「逆にわたしのほうが、子育てのコミュニティは岐阜でできあがっていたので、始めは戸惑いました。ただ、実家が近くなり車で10分くらいなので両親とはいい距離感でお互いに行き来しています」と、奥様。

古民家風?

引っ越した時は、家の広さにも慣れないと感じたこともあったそうですが、テーブルやソファなどを少しずつそろえていくうちに徐々に馴染んでいったそう。

ここを設計した竹田さんは、海外経験が長く、どちらかというと普段は海外テイストで仕上げることのほうが多いそうですが、この物件に携わり、メディアでも取り上げられた反響で日本家屋の改修案件が増えたといいます。

「お施主さんは古いものが好きだけど、同時に現代的なデザインや、機能性を持った住宅を求められていました。古い建物を古民家風にみせると、それはフェイクになってしまう。この家では、いろんな木を使っているんです。バーチ、ラワン、シナ、ヒノキ、いろんな木を使うと、中和していくというか、新しいのか古いのか良くわからない状態になっていく、そのような感じがお施主さんのライフスタイルに合っているのではないかと思いました」と、竹田さん。

キッチンはスイージー、収納庫はオリジナル造作

ずっと飲食と関わってきたという奥様のお料理はプロ並み。ご主人の仕事の都合で来客も多く、大勢の方に大皿でご飯を振る舞いおもてなしをすることもよくあるそう。
絶対に欲しかった、という造作の収納庫には、ご主人がつくられた器はもちろん、家電や、絵本なども並んでいます。

キッチンは手元を隠せるのがお気に入り。

「前に住んでいた家では、器がぜんぜん仕舞いきれなくて。リビングとは別の部屋に食器棚があったんです。でもやっぱりそこまでわざわざ取りに行かないですよね。新居ではぜんぶ器が見渡せるようにしたいな、ってリクエストして、つくってもらいました。道具もたくさんあって、キッチンの引き出しにもいっぱい入ってます。キッチン前面部分にも高さのある収納をつけてもらいました。散らかりやすい部分はみえないので、すごくいいです。ここはちょっと贅沢なんですけどね」

su:iji スイージーNZ20、ナチュラル色

「キッチンは、本当にめちゃくちゃ悩んだ部分でした。料理はかなりするほうなので、大前提としてステンレスの天板、前開きの食器洗い機、これはマストでした。ウッドワンさんの岡山ショールームにも行きましたし、いろいろ主要なメーカーさんはほとんどみてまわりました。質感とか大きさとか、ネットやカタログだけだとやっぱりわからないので。ショールーム巡りは大変でしたが、実際に足を運んで現物を見ると、表面がつるっとしていたり、きらきらしていたり、こういうのじゃないよね…って、その辺は主人ともお互い意見が合って」

料理道具

「ウッドワンさんのショールームは、なんだかほっとする、親しみがあると感じました。驚きの大発明!みたいなものではなく、シンプルに情報を伝えてくれるというか。そもそも目指してる方向が合いましたね」

ステンレス ヘアライン天板

「ほんとにうちは毎日使っている“料理ガチ勢”なので、もともとヘアライン仕様でしたが、3年ほど使って、天然のバイブレーション仕上げになってますね。笑」

造作キッチンも視野に

「実は、最初は造作も視野に入れて、ステンレスのセミオーダーの工場で見積もりも出してもらっていました。でも引き出しも欲しいと伝えると、先方の方が“引き出し”となるとスペックや価格はメーカーさんにはどうしてもかなわないから、もう一度そちらで検討されてはどうですかって逆に提案頂いて。一周回ってウッドワンさんのスイージーに戻ってきたんです」

大容量の引き出し

「実際に使い勝手もかなりいいです。いつも、こんなに入らないかな、と思いながら閉めるんですけど。うわあ、閉まった!こんなに入るんだ!って毎回思ってます」

「うちは重たい鍋も多いんですけどぜんぜんへたらないというか、造りはしっかりしてますね。ここはボウルを入れています。多分一般的な家ではこんなにたくさんないと思うんですけど。キャンプ用のものもぜんぶここに収納しています」

家族も集まるキッチン

「キッチンの通路幅や、置く位置などもアドバイスをいただきました。竹田さんからはデザイン的にシンク下にも引き出しがあるものをおすすめされましたが、ごみ箱も置けて使い勝手の良さそうな“シンク下オープン”のタイプにしました」と、奥様。

「システムキッチンで無垢の木を使っているメーカーさんは少なく、ウッドワンさんのキッチンはデザインもシンプルで、他のデザインと合わせやすいのが決め手になりました。
今回採用させて頂いたキッチンは壁付けタイプのものですが、キッチン背面に手元が見えないように少し高めの棚をつけて、製作で作るキッチンのようなオリジナルなものになりました」と、竹田さん。

子どもたちも炊事に参加

「きゅうりとトマトのサラダ作ってあげるよ」と、兄妹。

「お父さんの(器)たくさんあるよ」

「これは俺の」「これ、お父さんの」「これ、妹が使ってる」「これも、よく使ってる」
一つ一つ、ていねいに教えてくれました。

雑貨屋さんのよう

雑多でありながらすごく機能的なキッチン空間。
どこになにがあるかがわかりやすいので、子供たちもキッチンに集う理由がわかります。

(編集部メンバーもおもてなしいただきました…)

兄妹が一生懸命作ってくれたサラダに、ラタトゥイユ、コーンのご飯、レモングラスの入った麦茶…。大きなテーブルに、色とりどりのご馳走が並びます。(調理の所要時間は15分ほど…?)

人の集まる家

人がたくさん集まれるように、というのはこの家の大きな要望でもあったそう。知人の木工作家さんが提案してくれたテーブルは、足を畳むと座卓に早変わり。
「子どもたちが思春期に入ったら、こういうのやめて、とか言われちゃうのかな…」と、奥様がつぶやくと「お母さんね、料理うまい!おいしいよ」「楽しいな。今日泊まってってよ!」と、お兄ちゃん。
まだまだ大丈夫そうですね。

大森さんご家族(左)と、raumus主宰 竹田真志さん(右)

こちらの家は2021年に施工。今でもずっと家族ぐるみのお付き合いがあるそう。

「陶芸家の夫、多くの人を集めて振る舞う妻の居場所のために古民家を改修し、力強い住宅が実現されています。家族が楽しく暮らせる大きな空間がつくられている点が素晴らしいと感じました」
ウッドワン空間デザインアワード、審査委員長である伊東豊雄先生からもコメントをいただいています。

(文:松岡)


このスタイルで使用している商品

施工:ヤマトハウス

設計:raumus


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