築130年。住み継がれる古民家「金川珈琲」
東京から三重県多気町に移住。古民家を改装したカフェ。
お施主様であり金川珈琲店主のご夫婦は、長年東京で営業してきた喫茶「キンレイ」を閉め、三重県に移住をされました。以前からずっと2人で移住の話はしていて、そろそろ、というタイミングでよい物件に巡りあえたといいます。
「三重県は本当によいところ。」伊勢神宮に、鈴鹿サーキット、松阪牛、伊勢海老に…米どころでもあるし、お茶もおいしくて有名。「三重県にはいいものがたくさんあるのにそんなにメジャーじゃない。県民性なのか?謙虚で奥ゆかしいところがあります。こんなに人のいい街、時間もゆっくり流れていて。こんないいところで珈琲屋さんできたらいいな、という想いでやってきた。」
玄関を入ると、珈琲の良い香り。
土間の床は当時のままで、室内の床には床暖房をいれている。
奥にみえるのは「タンス階段」。
これを上がると2階席に繋がっている。
当初、お店で靴を脱いでもらうスタイルは想像をしていなかったが、土地柄、畑仕事のあとに喫茶にきたりするご近所の方もいて、これが合っていたそう。そのまま上がると床も汚れてしまうし、大切に使っていただきたいという想いも込められている。
タンス階段を上がって、2階席へ。
入口手前の天井が吹き抜けになっている。
ケヤキの梁は100年もするとこんな色に。通常、昔の民家にはかまどがあるのでもっと黒く年季の入ったものになっていくが、ここは呉服屋さんとしてつかわれていたために、130年経っても木の風合いはそこまで変わらない。
2階吹き抜け部分からは、店主が珈琲を淹れているところがみえる。
いつも珈琲を淹れている作業台は、ステンレス素材の天板だから、上に松の板を一枚敷いている。
これは珈琲がすぐに冷えてしまわない工夫なのだとか。
その松の板も、この古民家から出てきたもの。
丁寧にドリップされた珈琲。
珈琲は苦み、酸味、コク、必ずお客様の好みをきいてから注文を取るようにしている。
実はこの木製のスプーンも、建物の部材を加工したもの。
作業台うしろの収納棚は「カベツケ」。
扉がないオープンな収納は、埃が溜まらないか心配もあるが、ここに乗せているカップは毎日、ほぼ全部使う。
扉を開けたり閉めたりするのは「回転率がすごくわるいと思う」と、飲食店の店主ならではのお声も。
ご近所さんは家族のよう。
テーブルやトイレに飾っている小さな花は、向かいに住むおばあちゃんがいつも持ってきてくれる。
「食べきれないから手伝って」といって気をつかわないように甘いものを差し入れてくれる。知らない人でも「いってらっしゃい」「いってきます」そんな声が飛び交う街。
最近改築したという店舗の2階、住居部分。収納部屋にも案内していただいた。
窓際にある手作りの階段にも、引出しの収納がついている。
昔はここに女中さんが何人もいて、お布団も、お洋服もご主人様が使ったあとは、すべて「蔵」にしまうという暮らし。だから収納がひとつもなかったそうです。
収納部屋へと繋がるデザイン階段。
手すりや吹き抜け部分の格子は古材が使用されている。
この古民家の再生、設計を担当された山路工務店の代表である小林様は
「昔の人は何かしら残しておく習性があるように思います。古材は建物の倉庫に眠っていて。古民家に合わせるなら、やはり新建材や集成材でもなく無垢材だとおもう。国産材がいいなぁ、と思いながらいつも建材を選んでいますね。」と教えてくださった。
祖父の代から70年近くつかっているという焙煎機も見せていただいた。
部品が壊れたらなおして、今でも現役。
アナログな機械なので、むしろ壊れることは少ないのだとか。
豆は湿度、気温、で出来具合が違う。いつも豆が「ぱちぱち」いって教えてくれるが、その声をきく感覚は、数字や時間ではなく肌感覚でしかない。毎日違うけど、毎日同じように仕上げないといけない。何年やっていてもいつも緊張する瞬間。
金川珈琲店主のご夫妻。
家づくりはお施主様に手伝ってもらったほうがいい、というのが設計した小林様の考えかた。木タイル張り、ペンキ塗り、床のみつろうワックス…ご夫婦は移住してから、家づくりの過程でDIY作業をするようになった。
「やってみてわかったのが家への愛着。」
営業前に時間をかけて丁寧に掃除をするようになったそう。
家づくりを通じて、また新しい価値観を発見されたご夫婦。
三重県に行ったら、ぜひ訪れてみたい場所です。
お店の詳細はこちらから。 金川珈琲
(文:松岡)
お客さまと木のある暮らしとのつながりデータ
[ウッドワンの商品を選んだ理由]
・古民家に馴染む、使い勝手のよい収納だったから。