幸田菱池の家
ゆっくり育てる三角形の家
建築士である井上さんが自邸を建てるために選んだのは、住宅地のブロックの一番北に位置する三角形の土地。元々は畑として使われていたこの土地に建てたのは、21°の鋭角を持つ直角三角形の家でした。
土地を持たない施主が家を建てるには、通常できるだけ土地の価格を抑えようとする。そうすると、必然的に狭小、変形など条件は悪くなっていく。それならば建築士として、あえて一般の人が購入に踏み切れないような条件の悪い土地に、設計の力でどこまで魅力的な建物を建てられるか挑戦してみよう。そう考えていた時に縁のあった、三角形の土地。購入の決め手となったのは「ここなら面白いのができそうだな」という、井上さんの直感でした。
建物の西側は、衝撃的なほどの鋭角。ただ、あまりに自然に建っているため、思いのほか周囲になじんでいる。
あえて木造にして構造材を見せる選択をしたのは、LVL構造材に携わった経験のある井上さんの強い思い入れがあったから。しかし、構造材が90°以外の角度で交わる軸組構造は、井上さんにとっても初の試み。「意匠としても成立させるために、これがベストなのかと最後まで考え続けました。この天井を見上げると、今でもこの家ができあがるまでの苦労や、関わってくれた人たちへの感謝の思いが浮かんできます」
右が設計者の井上さん。左は、同じく建築士の奥様。
生活空間は、全て2階に配置。トップライトと、南側に設けた大きなFIX窓から、明るい日差しが差し込んでいる。
床面積は、駐車場を除くと事務所部分を入れても24.5坪。それなのに広々と感じるポイントは「天井が高いこと(一番高いところは約4メートル)、目線が抜けること、空間が細切れになっていないこと。」
壁が合板のため、クロス貼りの際に見切りとして必要な巾木、廻り縁などが付いていない。空間の中の線を減らしたことで、「すっきりと整っている」と感じる空間に仕上がっている。
キッチンには、ウッドワンの無垢の木のキッチンスイージーNZ20ナチュラル色を採用。
「壁付け型だったので、見せるキッチンとして考えたときに、この空間に合うものはこれしかなかったんです。リビングの収納も兼ねているので、収納量も重視して選びました。」
井上さんが日ごろから材料選びで心掛けているのは、いかに傷つけないかではなく、時が経つにつれ変化することを当然として、それを受け入れられる材料を選ぶということ。
合板でできた引き戸の端には猫たちの爪とぎ跡が増えていくが、傷はそれほど気にならない。「傷がつかない硬い素材にするよりも、共に暮らす猫たちが暮らしやすい方がいいかなと思っています」
合板の壁には、下地の位置を気にせずどこにでも棚などが取り付けられる。入居後に取り付けた本棚は、猫たちの足場にもなっている。
1階にある、SOHOスペース。家の形に合わせて、奥に向かって狭まっていく。