自然を感じる暮らしって、ローカルな場所でなければできないのでしょうか?日本の伝統って、いまの私たちの暮らしとは縁の遠い話なのでしょうか?きっと、そんなことはありません。「自然が、自然に、とけこむ日々」のシリーズでは、もっと自由に、いまのスタイルにあわせて、日本の風習や、季節の情緒を楽しむかたちを探っていきます。
五穀豊穣を願う花
最低気温が記録される一月ニ月。
その寒さから冬の頂点を思わせますが、お正月を「新春」と表現するように暦の上ではもう春が始まっています。新しい年、新しい節気が始まるおめでたいこの時期を、まだ咲かない野の花に代わっていろどるのが、柳やミズキなどの枝に紅白の餅玉が飾り付けられた「餅花」です。
昔から一月十四日から十六日は小正月と呼ばれ、その年の豊作を祈ったり、収穫を占ったりする行事が行われてきました。この小正月に五穀豊穣の祈りを込めて作られるのが「餅花」なのです。葉のない枝に丸くついた餅は梅の蕾を思わせますが、細い枝が餅の重みでしなる様子は、豊かに実った稲穂をあらわしているそうです。
飾られた餅花は、小正月が過ぎてから枝についたまま焼いたり、一月十五日に行われるドンド、トンド、左義長などと呼ばれる火祭りに持ち寄ってその火で炙ったり、上巳の節供まで飾り、餅を揚げて雛あられにしたりして食べ、一年の無病息災が祈られました。
新春にお米づくりを想うひととき
その年の実りが最大の関心事だった時代とくらべると、直接農業に携わる人が少なくなった今、「五穀豊穣」が個々の人の願いに含まれることは少なくなったことでしょう。けれど相変わらず、お米の出来高がみんなにとっての一大事であることには変わりありません。
どこかの農家さんが日々お天気を気にしながら、一所懸命に育ててくださったお米を食卓でいただいている私たち。
小正月に行われる実際の村の祭りには参加できませんが、「大きな災いも無く、美味しいお米がたくさん穫れる一年になりますように」と米づくりに心を寄せてみるだけでも、遠くの田んぼにそのあたたかい想いが届くかもしれません。
餅花を作ってみましょう
豊かな実りを願う「餅花」は、お家に電子レンジさえあれば驚くほど簡単に作ることが出来ます。本来使われる柳やミズキの枝は手に入りにくいかも知れませんが、冬の公園に落ちた小枝を使えばお手軽です。
自分好みの形の枝を探すのも宝探しのようで楽しいひととき。細めで、なるべくたくさん枝分かれしたものを選んで集めて餅花を飾り付けてみましょう。
市販のお餅を用意します。
耐熱のお皿にのせ、ラップをしないで加熱します。この時、加熱しすぎて餅がだれると扱いにくくなるので、ぷくっと膨らんだタイミングで取り出します。
冷めると硬くなるので手の中に包み込んで持ちながら、小さくちぎって枝に巻き付けていきます。まずは白いお餅から。白と白の間にピンクのお餅がつくことを考えて間隔をとります。
ラグビーボールのような太鼓腹につけるとぷっくりして愛らしい形になります。途中でお餅が固くなってきたら少しレンジで加熱してやわらかさを調節しましょう。
次にピンクのお餅を作ります。やわらかくしたお餅に、耳かきひとさじ位の食紅を少量の水に溶いたものを練り込んでいきます。食紅は少しの量で発色しますので、入れ過ぎて赤いお餅にならないよう注意が必要です。色がついた部分を畳み込んでいくと手が汚れにくいのですが、心配な方はビニール手袋を使ってもいいですね。
白いお餅の間に、先程と同様に巻き付けていきます。ピンク色が入るとぱっと華やかになります。
南天や松、葉牡丹などと生けると凛とした新春らしいお花になります。様々な春のお花とアレンジを楽しみながら上巳の節供まで飾るのもいいですね。お家のリビングからお世話になっている田んぼへ。やさしい想いが届きますように。
〈 取材協力 〉