Ki-mama Ki-Mama

Magazine

2024.07.23

私が、この木を、えらぶ理由

“うぉぉー!”人生を豊かにする建材。「WO Timeless standard collection」

深澤直人氏をディレクターに迎え、2024年3月に発表された「WO Timeless standard collection」。このメディアを運営する、木を育てている会社ウッドワンがつくる、新シリーズが誕生しました。

これまで、木に携わるさまざまな職業の人へインタビューをする中で、木が持ついろんな個性と多様性を見つめてきましたが、「木」という自然美を好み、それを生業とするひとや企業には、どこか共通した考え、想いがあるように日々感じていました。

今回は今一度原点に返り、このメディア運営を行う私たちの仕事、内側を見つめ、木を育てている会社のものづくりについて「WO ダブルオー」を通じて、一緒に想いを共有したいと思います。

商品企画開発部 商品企画室 I室長

当メディアではおなじみ、ウッドワン商品企画室のI室長です。無垢の木のキッチン「su:iji」スイージーの生みの親でもあり、実はこのKi-Mamaサイトの生みの親でもあります。

今回の新シリーズ「WOダブルオー」は、世界で活躍するプロダクトデザイナー、深澤直人氏をディレクターとして、商品企画開発部長でもある社長をはじめ、商品企画室のメンバーが主体となってすすめ、誕生しました。

日本各地に点在するウッドワンの拠点、また保有する循環型の森があるニュージーランドはもちろん、フィリピンなどの海外工場との連携も含めて企画、開発されました。商品の成り立ちや開発秘話について、このブランド立ち上げ、企画の大枠部分をじっくりときいてみます。

今日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします、I岡です。

さっそくですが、この商品をつくろうとしたきっかけを教えてください。

そうですね。。もともとのはじまりは、2020年の夏でした。ピノアースの飛躍を願って、何か策を講じなければと考えていた時に、社長から「デザインの力で新しい流れをつくってみよう。デザイナーを探してみよう」と話があったのがきっかけですね。

ピノアースとは
ピノアースの「ピノ」は松材や松ぼっくりを表す言葉で、「アース」は地球を表しています。
自社で所有するニュージーランドの森で植林・育林をした、地球環境に配慮した商品づくりをコンセプトとしており「ピノアース」は、まさにその森で採れたニュージーパインを使ったシリーズです。

「デザインがちょっといまひとつだね」「木質柄で十分だね」と言った声があったりもしてね。
30年間、手をかけて育んできた森の木が、ちょうど伐採時期を迎えているので、ここでなにか新しい打ち出しかたができれば、とずっと考えていました。

なるほど、“デザインの力“ですか…。それがはじまりだったんですね。

紆余曲折ありましたが、最終的には社長より「深澤さんにお願いしてみよう」という話になりました。

Naoto Fukasawa Design事務所に訪問されたのですね。

2020年の秋でした。まだ暑さが残っていましたが、心地よい風が吹く秋晴れの午後でした。南青山の事務所に、同じ商品企画室のT課長と訪問しました。
ちょうどお昼を食べたあとで、ドキドキして落ち着かなかったなあ。
それで、場所は見つかったけど看板がなくて。建物はわかったのに入りかたがわからなかったり(笑)当時のことを思い出してきましたね。

とにかく、乗り込んだわけですね。

そう、いつもテレビや雑誌でインタビュー受けられているところに通されて。まさにそこでプレゼンしました。

どんなプレゼンをしたのですか?

ルーツが林業の会社ということ、ニュージーランドの森の法正林施業を含めた会社概要と…。

法正林施業とは
森林の年間生長量だけ毎年伐採を行い、持続可能な森林経営を行うこと。

ウッドワンでは、ニュージーランドの森をこの方法で管理しています。

それと、「木づかい、戸そだて、家づくり」のスタイルブックで、今まで出してきた商品を説明しました。
私たちの扱っているのは建材だから。工事を伴って完成する商品であり、空間の背景となるものです。
その中で、建具(ドア)のデザインをお願いしたいと伝えましたね。

スタイルブック  無垢の木と共に暮らしを楽しむ家族の物語を掲載

どんな様子でしたか?

深澤さんは、このスタイルブックを1ページずつ丁寧にご覧になってくださいました。
「これはいいですね。これは惜しいですね」「自ら植林した材料を使っている企業背景も素晴らしい」「柾目は美しいですね」「建材は黒子だけど、黒子がよくないとリッチな空間はつくれない」などコメントをいただきました。
「次回の打合せまでに、どのような取り組みかたができるか検討しておきます」という言葉で初回の面談は終わり、非常に好感触だったことを覚えています。

いいですね、出だし好調ですね。

それが、COVID-19です…。緊急事態宣言の影響で次回打合せが延期し、正式契約ができなかったので焦りました。先方からも解除まで延期しましょうと話があり、待ちました。解除の報道と同時にまたアポを取ったことを覚えています。

あの時は、先の見えない感じがしましたね。

なんとか取り付けた2回目の打合せの時、深澤さんから
「8mまで枝打ちしたラジアータパインという素材をどう活かすか?環境経営にデザインをプラスしていく、というプロジェクトとして、是非、参加したい」
「大きく育てた木材の迫力を伝えるには床」「床をベースに商品を展開していくのが良い」と言われました。

会社に対し、深く理解してくれたことがわかりますね。

実はその時期、別の商品開発で、偶然にも「板目の床材を作るのはどうか?」と打合せをしていました。

板目(いため)、柾目(まさめ)とは
年輪に対して水平方向に切ると、曲線的な板目に。垂直方向に切ると、直線的な柾目があらわれます。

(たまたま話をすすめていたので)「これは、偶然なのか。必然なのか」と感じました。そして、「背景となる建材を大切にすることで、空間は心地よくなる。美しい背景をつくりましょう」という言葉と一緒に1枚のイラストを描かれました。


深澤さんのラフスケッチ

これが、打合せ時に深澤さんが描かれた1枚のラフスケッチです。帰り際にサインを依頼しました(笑)。本社に戻り、社長に報告しましたね。

それで、あの「床材」が誕生したんですね。

迫力ある3030x303㎜の一枚板

スタートはそうですね。そこから試作です。ノタ付き板(木の丸太に皮部分が付いた板)の在庫が日本にあったのは幸運でした。最初は突板ではなく、無垢の床材で厚み30㎜の試作を始めました。当時、品質管理部に所属のA部長と、ノタを落として厚みを揃えるところから始めました。一緒にトラックに板を載せて、同じ広島にある兄弟会社、中本造林まで走ったのを思い出します。

その後、再び、まん防や緊急事態宣言が出て、正式契約が結べていない状況が続きました。面談もできない期間でしたが、JNL(ニュージーランド)に板目に製材したフリッチ(四面を粗く落とした材)を依頼していました。フリッチが豊橋の工場に入荷したのが2021年の年末でした。

ほぼ同じ時期2021年末、緊急事態宣言の合間にようやく正式契約ができました。ここから正式にプロジェクトがスタートしました。緊急事態宣言や、まん防の合間を縫いながら打合せと試作を繰り返してきました。


とんがり屋根のルーム

深澤さんのスケッチ、スタイルブックの表紙のようですね。

そうですね。最初にスケッチを見たときにスタイルブックの表紙にも似ているし、2012年のスイージーカタログで初めて瑞浪(ベルキッチン)で撮影した、とんがり屋根のルーム(※現カタログにも掲載あり)を思い出しました。深澤さんは、「この部屋で床の迫力を伝えていこう。シンプルな空間に適度な量の“木”を使うことでリッチな空間になる。建材の良さを伝えるためにスタイリングは最小限に」と仰ってました。


WO Timeless standard collection

本格始動ですね。

まずは、この空間を実物大で作って体験してみようと動きました。詳細寸法の打合せ後、数週間で立ち上げた空間をみて、深澤さんは「すごいスピード感ですね!」と驚嘆されていました。本社広島にある技術センターで、商品企画開発部のメンバー総出で、重たいフリッチをプレーナー掛け(表面仕上げ)しましたね(笑)。

WO Timeless standard collection ブランドについて

WOブランドについて教えてください。

価格競争や値引き販売にならない商品に仕立ていく。これは開発当初に社長から言われていた課題でした。

深澤さんには「デザイナーの名前を前に出すよりも、ウッドワンを大事にしたほうがいい。企業ブランドだから“ウッドワンのドア”“ウッドワンの床”で良い」と提案をもらいました。しかし、販売する際に、既存商品との区分けが必要ということを理解していただき、ブランド名を考えました。

作家性があるものよりも、みんながつかっていいもの、売れるものがいいもので後世に残っているもの。建物もずっと残っていくものだから。カタログにもデザイナー名を主張しないで、って言われていました。

だからシンプルにWO[ダブルオー]と決まったんですね。

ウッドワンを連想させるWO[ダブルオー]、商品をアンベールしたときに思わず漏れる「うぉぉー!」という言葉も含まれています。聞いたときに、私達も思わず「うぉぉー!」と言っちゃいました。サブタイトルTimeless standard collectionこれは、私たちの建材が簡単に交換できない商品で、だからこそ流行に左右されず長く使える商品群にしていきたいという想いを込めています。

この商品の発売前、全社で緊急(⁈)商品発表がありましたよね。

あのWeb会議の翌日に若い営業スタッフから電話があって。「僕、泣きました。入社して一番わくわくしました」って。ほかにも「この商品は絶対守ってくださいね」「本気で売りたい子がいると思うからみんなで売りかた考えようよ」とか。すごいよね。そういう気概や感度のある人が、高感度な新しいユーザーの層を見つけて、そういう人にこれから届けていく、みんなで商品を育てていく。そうなるといいな。

社員みんなの「守ってほしいもの」ですね。

若い営業スタッフがうちで働いていることに誇りを感じていた言葉でしたね。これから市場の声や、社内からも意見があがってくるとおもうので、みんなで一緒にこれからのことを考えていきたいな。経営理念手帳に書いてある“一流は一流とつながる”世界的な深澤直人さんとつながり、モノづくりも販売先も一流と深くつながっていく。「あの時、流行ったよね」じゃなくて定番にしていきたいですね。

これからですね。

深澤さんから「商品自体も大事だけど、展示の仕方、伝えかた、写真などコミュニケーションツールも同じくらい大事。そこまで含めて商品でありブランドイメージはそこで作られていく」と言われました。
お披露目会の場所(代官山T-SITE GARDEN GALLERY)をこだわって探したのも最初に見てもらう場所が大事だと言われていたからです。社員みんなで美意識を高めて、自信をもってニュージーパインの商品を伝えていけたら…。

(左から)プロダクトデザイナー 深澤直人氏、当社 商品企画室 室長 I

「WO Timeless standard collection」特設サイトはこちら

施工確認を含め、カタログ撮影のために建てた30mのブースです。こちらはウッドワンの茨城県にある関東物流倉庫に施工したものです。

いいですね。

つづきはこちら→NO”原木”、NO “WO ダブルオー”
森から切り出された、もとの木から、商品開発までの秘話をお話しています。