緑のなかで過ごすと、リラックスできたり、元気がでたり、食べ物がおいしく感じたり。そんな力をもつ緑の空間は、あなたの家の近くにもきっとあるはずです。「緑を感じる場所」のシリーズでは、緑を感じられるスポットやイベントをご紹介していきたいと思います。
赤い大鳥居
世界文化遺産に登録された「嚴島神社」があることでも有名な、広島県廿日市市(はつかいちし)、宮島。赤い大鳥居は、コロナ期間を含め、3年半にも及ぶ改修工事が終了し、新たな装いとなりました。
「宮島」は神が宿る島として崇拝の対象とされています。徐々に観光客も戻りつつあり、今後はさらに賑わいが増していくことが予想されます。
今回はこの島で「株式会社伊都岐」という会社を設立し、スペシャルティコーヒーを焙煎する、代表の佐々木恵亮さんにお話しをお伺いました。ご自身も島内に住居を構え、ここでの暮らしが大好きだといいます。
宮島を中心に運営するカフェ6店舗(2023年現在)のうちの一つ「天心閣」へお邪魔し、この地で事業を始めたときのこと、一杯のコーヒーに込められた想い、この島での過ごしかたについて教えていただきました。
宮島町役場の隣に位置し、その昔は厳島神社が管理していた場所です。ここがお店になる前は、宮島町長が生活されていました。
もともとこんなに整備はされておらず、ジャングルのようだったとか。土地は荒れ、ネガティブな要素がたくさんあったものの、石垣や擁壁をつくればどうにかなるかもしれないという想いのもと、工事されることになりました。
「ここに自分で住むことも考えたけれど、お店にして、いいところをみんなで共有できたほうが僕も満足度が高いから。」と、佐々木さん。
外のデッキ材には桧が使用されています。室内の床は(偶然にも。)ウッドワンのピノアース(パイン材)。
コロナ禍でお店を1年くらい閉めている間に、デッキの張替えをしたり家具の入替をしたり、珈琲焙煎機も新調。この形になったのはコロナがあけた2022年のことです。
当初は外の一部に日本庭園をつくり、ウッドデッキは部分的につけていたけれど、コロナ禍で飲食店のあり方を考えたときに、全面ウッドデッキにするこのスタイルを思いついたそう。
「ここで小さい日本庭園をみせるより、そもそも壮大な借景があるわけだから。おかげさまで、コロナ禍に前向きなアクションを起こせたのは、お客様のおかげかな。」と佐々木さん。
広島生まれ、広島育ち。
広島修道大学、商学部経営学科を卒業。「昔カフェで働いていたし、なんかできるような気がする。無駄な自信だけはあった。」と、佐々木さん。大学卒業と同時期に、ご自身で繋いだご縁もあり宮島で開業、それから気づけば17年経っていたといいます。
ご縁のあったアンティークショップなどから仕入れた家具。
アンティークの家具も好きな一方で、年々趣向も変化し、最近は座り心地や居住性を考えるようになったそう。
コロナ禍で営業もできず時間を持て余してしまったとき、お店について落ち着いて向き合うことができたそう。「なかなかこういうお店は常に稼働させないといけないので。」
焙煎は涼しい朝に。
焙煎機は、佐々木さん曰く、世界中でも今のところ一番よしとされている“ローリングスマートロースター”という機械に入れ替え。「安定感と味と…違うんですよ。手前味噌ですが、珈琲がもっとおいしくなった!とおもっています。」
もともと使っていた焙煎機は鋳物なので壊れないし、買い替える必要はなかったそう。それでも新しいロースターは、モノもよく、熱源の排気方法が違う(炉を通して排気)ことで、エネルギー消費量が抑えられ、ガス代も抑えることができて、結果的に環境にやさしいのだとか。「なにより安定していいものを出せるのがいい。」
コーヒーの世界は職人技?ではないのかも。
「絶対的に同じ品質のものを出し続けるのも大事だと思っています。」
個人店でやっていると、”コーヒー”の世界はある意味“ファジーな世界”“こだわった風”で、基準が曖昧になりがち。
だけどスタッフに対しても、なんでもできるだけ正直に、みんなが分かるようにしていこう、というのが佐々木さんの考え。
お客さまにもいいものを知ってもらいたい。
ここで働くスタッフは、10日前に焙煎した豆でも、もう古いと感じて、飲まない。それは、自分たちがおいしいものを知っているから。
仕入れは量が必要。
珈琲を焙煎する前の“生豆”は輸入品。仕入れに関しては、消費量も少ない個人店が、商社からはなかなか買えないもので、最初はかなり苦戦。
「みんなにいいものを知ってほしいのに、お店に購買力がないために、どうしても仕入れが高くなってしまう。」高値で少ししか買えないと、当然お客様への販売価格も変わってくる。「まずは量を増やさないと。」と、いつも頭を抱えていたのが26歳くらいまで。
それから直営店を増やして、現在では業界では名の知れた商社から買えるようになった。
いつ、どこで、誰が作ったのか、追跡可能で安全な豆を選ぶという“トレーサビリティ”も評価基準の一つ。おいしいコーヒーをわかりやすく、もっと身近に感じてほしいという想いが、提供する豆には自然と反映されています。
コーヒーが好き。
実はコンビニコーヒーも好きで飲んだりするという佐々木さん。だけどやはり一番飲むのは自分のところの珈琲で、「やっぱり一番美味しい!」と感じるそう。
最近は、乳製品の大手販売メーカーと組んで、珈琲を抽出して作った本格的なソフトクリームなども販売しています。
せっかくなので、この島で暮らす佐々木さんに、1日のスケジュール、宮島の楽しみかたも教えていただきました。
1日は朝5時から。
佐々木さんは毎朝5時くらいから豆を焙煎、8時半くらいになったら一旦手を留めて山登り。下山してシャワーを浴びて、メールチェックなどのデスクワークを行います。
弥山に登る。
宮島には、初心者でも登れる弥山(みせん)という山があります。週2、3回登っていて、最初はきつかったけれど、行きは40分、帰りは25分(一般的には片道1時間半)で往復できるようになったそう。「自分で焼いて自分でいれたコーヒーを頂上で飲む、これがもうやめられない。」と、佐々木さん。
春夏秋冬、朝がいい。
早朝は人も少なく、より新鮮な空気。厳島神社のほうから、笛の練習音が聞こえることもあるとか。“せとうちの海に浮かぶ、ちいさな宿。“として知られるクルーズ客船「ガンツウ」も、早朝に宮島を散歩するプランがあるとかで、「わかってるな~。」といつも感じるのだそう。
夕方、海で泳ぐ。
夕方誰もいなくなって海で泳いでいると、近所の人とは約束するまでもなく集まることができる。「季節は、本領発揮している夏が一番好き。」
変わるもの、変わらないもの、今を楽しむ。
人気の“揚げもみじ”や、お代わりしやすい立ち飲み酒店など、一昔前と比べて商店街も様変わり。以前はなにもなかったゾーンにも店ができています。「インターネットが普及してお客様も進化しているので、旅行パッケージプラン通りに動くひとが少ないようにおもいます。変わるものもあれば変わらないものもある中で、じわじわと改良を重ねていった結果なのでは。」
「今日は人が普段の半分以下かも。いつも広島県内の人がたくさんきてくれているのだなとおもいます。雨の日はさすがに山登りしないけど、もう、よそじゃ住めないなとおもう。日中おかげ様で仕事はあって、今でも毎日旅気分。身の丈にあった暮らしが成立している今がとてもいい。ずっとここで暮らしていけたらいいな。」
2か月前に40歳の節目を迎えたという佐々木さん。自分がやらなくても、スタッフに任せてできることがあるのでは?と、改めて自分の仕事のありかたも見直しはじめたそう。
お店のこと、暮らしのこと、これからのこと、いろんなお話を聞かせていただくことができました。
こちらのお店「天心閣」、宮島のある広島県廿日市市は、実はこのKi-Mamaを運営する当社(株)ウッドワンの本社の所在地でもあります。本社屋上や窓からも、大きく島を見渡せるほどに、我々にとっても身近な場所です。
春夏秋冬、天気や時間帯によってさまざまな顔をみせる宮島。高台からは五重塔や海を見渡すこともできる伊都岐珈琲さんへぜひ訪れてみてくださいね。
(文:松岡)
<取材協力>
天心閣
広島県廿日市市宮島町413
宮島桟橋から徒歩9分
営業時間 PM2:00~PM5:00
定休日 水・木
※内容は取材当時(2023年7月)のものです。