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2022.10.03

私が、この木を、えらぶ理由 #07

「木から布を作り、まとう」という新しい文化。

木を使ってものづくりをしている人たちは、どんな木を、どんな風に選んでいるのだろう。「私が、この木を、えらぶ理由」のシリーズでは、木に携わるさまざまな職業の人へのインタビューをとおして、木が持ついろんな個性と多様性を見つめていきます。

日本の山の間伐材を「木布(モクフ)」という布に変え、森林環境を守りたいと願う会社があります。木からどのように布ができるのでしょうか?そしてそれは一体どんな布なのでしょうか?今回は、その布を使った製品の企画からブランディングまでをプロデュースしているthe laB. media solution代表取締役の江口さんとプロダクト開発を担当されている大江さん(以下the laB.)にお話をうかがいました。

江口さん(右)と大江さん。出来上がったばかりの木布ジーンズの試作品を手に。

木からジーンズができるまで

木からどうやって布ができるのか、全くイメージがわかないのですが…

(the laB.)まず、間伐材を細かく砕いてチップ状にします。(写真左)それを「地球釜」という球状の釜に入れ、薬品と高温の蒸気を加えて溶かし、繊維を取り出します。この状態がパルプですね。(写真中央)そのパルプを一度紙に加工し、細長いスリット状に切ります。(写真右)このスリットによりをかけたものが木糸となり、その糸を織りあげると木布の完成です。

パルプはふわふわと、綿のような手触り。

木を一度紙にしてから、糸を作るんですね…!

(the laB.)そうですね。木から繊維を取り出す工程が入るので、綿などの加工と比べると手間がかかります。でも、実はこの技術自体は織物業界には昔からあった技術で、新しいものではないんですよ。
今は、木をチップにする作業、パルプにする作業…と、各工程ごとに色々な工場にお願いして最終的な製品を作っています。

木布でできたジーンズ。腰には「山」の文字。

このデニム生地は、なんというかすごくデニムらしいのですが…

(the laB.)織りの作業は、出したい布の表情によってそれが得意な会社にお願いしています。今回作ったデニムの布は、ジーンズの聖地とも呼ばれる街、岡山県の児島で織ってもらったものです。ヒノキでいうと直径10㎝、長さ33㎝ぐらいの木の棒、まあ結構太い棒ですけど、大体それでジーンズ一本分の布ができます。

木布のデニム生地は光沢があり美しい布地で、程よいハリがある。試着したスタッフの方からは「軽い!」という声が。

色々な種類の木布たち。手前が札幌の間伐材を使ったデニムの生地。横糸をほぐすとスリットに戻った。

日本の山を宝の山に

材料に日本の山の「間伐材(かんばつざい)」を使われているのは、なぜですか?

(the laB.)間伐とは、木々にとって最適な成育環境になるよう込み合った部分の木を切ることです。
このような手入れを行わない山では、木が過密になってしまうため、一本ずつの木が細くなり根も十分に張りません。そのため大雨などで地表が流れやすくなり、土砂災害にもつながります。
間伐材を継続的に利用することができれば、自然と山の手入れが進み、日本の自然環境が守られていくことにつながると考えています。

日本の山の状況はどうなっているのでしょうか?

(the laB.)戦後の木材需要が急増した時期に、国策として杉やヒノキなど針葉樹の植林が進みましたが、その後海外から安い輸入材が入ってきたことで日本の林業は一気に衰退してしまいました。元々は、各地域で山の手入れをする組織があったのですが、高齢化が進んで担い手がいなくなってしまいました。
そして今、植林された木が伐期を迎えながら伐採されず放置された山が荒廃するという問題が各地で起きています。

森林資源を守るためには、間伐を行って手入れをすることが必要なんですね。

(the laB.)間伐を行うことで地表まで光が届くようになると、実がなるような灌木が生え、動物たちの餌や隠れ場ができます。山に動物がいれば糞を落とし、土壌を豊かにし、さらに山の栄養が雨で流れて、川や海の水まで豊かにすることができます。
今動物たちが食べ物を求めて人の住む場所まで下りてきてしまうのは、山が荒れていることにも原因があります。

経済性を追い求めた結果、以前は機能していたシステムが働かなくなっているのですね…

(the laB.)そうですね。元々私たちは、デザイン会社として木布のブランディングを担当するところから関わり始めたんです。
その過程で、日本の森林の状況について学べば学ぶほど、これは何とかしなくてはいけないという思いが強くなりました。コロナ禍の影響などもあって、元々かかわっていたプロジェクト自体は無くなってしまったのですが、自分たちのアイデンティティを表現するプロダクトとして引き継いでいこうということになりました。
間伐材をきちんと資源として使える仕組みさえできれば、日本中の山が宝の山になる!そう思うと、ワクワクしますね。

「日本の木を使う」という文化を作りたい

(the laB.)ただ、「環境に良いから使いましょう」という発想では、木布を広めていくのは難しいだろうと思っています。魅力的な布を作ることで、この布をまとうことが楽しい、この布で物を作ることが楽しい、そう思ってもらえて初めて広まり、間伐材がお金に変わることで森林の手入れが進み…と、良い循環を生み出していくことができるのではないでしょうか。
そのためにも、出口部分をきちんとデザインして、プロモーションしていくことがとても大切です。

「出口部分のデザイン」ですか。

(the laB.)はっきり言って、「そこだけ」と言っても良いくらいだと思います。というのも、織物の世界だと、昔からの高い技術を持つ会社がたくさんありますが、今は着物文化も廃れてしまって立ち行かなくなりつつあります。これまでに培った技術を活かして新しいことに挑戦している会社はありますが、最終的にネックになるのは、結局、広く知っていただくためのブランディングといった一番最後の部分なんです。
間伐材を使うという文化をどう作っていくか、そこが、デザイン会社である私たちがかかわる意味だとも思います。

木からできる布は、一周回って新しい

木布の魅力は、どんなところにありますか?

(the laB.)木布の面白いところは、材料の木の色によってさまざまな色合いが出てくるところですね。ヒノキを使うと白っぽく、杉を使うと赤っぽい布になります。ただ、最終的にどんな色になるかは出来上がってみないと分からない。
前回北海道の木で作った時には、もみのき、エゾ松、それから桜なんかを一緒に使いました。赤くなるかなと思っていたら、すごく優しい、今までに見たことのないようなベージュになりました。まあ工業製品と考えたら、品質が安定していないとも言えますが、地域ごとの個性が色に出てくるという面白さがありますね。

木布の材料となる間伐材。これは北海道のもの。

地域ごとのカラーがあるんですね!

(the laB.)また、今回試作したジーンズの生地は、「セルビッジデニム」です。これは、旧式の織機(シャトル織機)で織られた布で、生地の端である「耳」に赤い糸が織り込まれているのが特徴です。現代的な織機に比べるとゆっくりした速度で、職人さんが調整しながら織りあげます。だから職人さんによって風合いや表情も若干変わってくる。大量生産の生地にはない魅力を持った生地なんです。デニム好きの人が納得するような、そういう付加価値を大切にしたいと考えています。

布自体の表情が魅力的ですね。

(the laB.)今は、大量生産の時代にはできなかったモノづくりができるようになってきていると感じます。大量生産の時代には、織物工場の生産ラインを止めることなどできませんでしたが、今は生産量が落ちてそもそも生産ラインが止まっていたりします。だからこそ、特殊な織り方で数メートルだけ織りたいといった要望にも対応してもらえるようになっています。
例えばジーンズを作る時に、布を織るところから受注生産ができるようになれば、これまで当たり前だった「大量生産・大量廃棄」の慣習から抜け出すことができます。

木布のそのままの色を活かした布。上から水玉、ワッフル、ジャガード。

(the laB.)今日本で使われている植物性の繊維は主に綿花や麻ですが、日本ではほとんど生産されていません。日本の間伐材を原料にすれば、輸入のために燃料を使う必要もなく、山の手入れも進み、本当の意味でサステナブルな循環を生み出していけると考えています。

ジーンズの他にも、イラストレーターの方が直接イラストを描かれた一点もののスカーフ、様々な織り方で表情を付けた木布の日傘(80歳を超えた傘職人さんの手作り!)など、ひとつひとつのプロダクトにストーリーがあり、スタッフのみなさん自身がものづくりをワクワクと楽しんでいるのを感じました。これからどんなプロダクトが、日本の山から生み出されていくのでしょうか。

<取材協力>


laB.+ (ラボプラス)
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