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2019.12.06

私が、この木を、えらぶ理由 #05

物語をつめこんだタイムカプセル「古木(こぼく)」

木を使ってものづくりをしている人たちは、どんな木を、どんな風に選んでいるのだろう。「私が、この木を、えらぶ理由」のシリーズでは、木に携わるさまざまな職業の人へのインタビューをとおして、木が持ついろんな個性と多様性を見つめていきます。

古いお寺などを訪ねた際に、ふと柱に手をふれて、その手触りを確かめたことはないでしょうか?古い木材には、そのなめらかな手触りや、雰囲気のある見た目に、人をひきつける魅力があります。長野県に、そのような古い木材を、現代の建物によみがえらせている会社があります。もともと古民家に使われていた材料を、新しく建てる店舗に活用し、魅力的な空間を作り出しています。今回は、店舗の設計・施工から事業のサポートまでを一貫して行っている、株式会社山翠舎の山上社長(以下:山上)にお話をうかがいました。

山翠舎
長野県大町市の古木倉庫

編集部がお邪魔したのは、信州は北アルプスの麓、長野県大町市にある古木倉庫です。一歩足を踏み入れると、天井近くまでうずたかく積まれた、木の貯蔵量に圧倒されました。

古木ならではの3つの魅力

古木(こぼく)という言葉を、今回初めて聞きました。

山上: 古民家(戦前に建てられた民家)に使われていた木材で、地域や家族のストーリーを宿したものを、山翠舎では「古木」と呼んでいます。「古材」だと、単なる古い材料というイメージですが、古い木というのは、むかしからご神体として祀られている神社もあるほど、尊い、価値あるものだったのです。私たちはこの価値を大切にしたいという思いで、古材とは区別して、「古木」と呼んでいます。

古木ならではの魅力とは何でしょうか?

山上:古木の魅力は、見た目の美しさと、材としての質の高さ、そしてストーリー性にあります。まず、見ていただくと分かるように、とても雰囲気があります。表面がすすけていて、当時製材するために使った「ちょうな」や「まさかり」の跡が残っています。今の、機械で製材されたものには出せない、手仕事の温かさがあると思います。梁に使われていた木には、「鉄砲梁」といって大きくカーブを描いた材もあります。とても迫力があり、意匠性が高いので、空間のポイントとなる使い方ができます。

古木

木材としての質も高いのですね。

山上:ここにある古木は、ほとんどが長野北部や新潟の、いわゆる雪国のエリアから来たものです。古民家が建てられた時代には、それほど遠くへ材を運ぶことができなかったので、基本的に家の周りに生えている木を使っています。寒い地域で育った木は、目が詰まっていて硬いんです。そして雪国の家というのは、雪の重みに耐えなければいけないので、柱や梁が立派なものが多いですね。関東だと、3寸、4寸(9~12㎝)角の柱が多いですが、雪が多い地域では、5寸、6寸(15~18㎝)角といった寸法の柱が普通にあります。材料としても良いですし、サイズが大きい方が、再利用しやすいのです。また、今のように乾燥技術がなかった時代に伐採された木は、木が葉を落として、水を吸い上げる活動が落ちる時期に伐採されています。自然の法則に従って、理にかなった方法で処理されているんです。こういったことから、現代ではなかなか手に入らない、質の高い木材だと言えます。

古木

古木の持つストーリー性とは、どういうことでしょうか?

山上:今、この倉庫にはおよそ4500~5000本の古木が貯蔵されています。そして見ていただくと分かるように、古木には一本ずつラベルが貼られています。ラベルには、太さ・長さ・樹種といった基本的な情報はもちろん、採取地や経歴、由来までが記載されています。なぜこのようなことをしているかというと、古木の持つストーリーを大切にするためです。例えば古木を使ってお店を作られた方が、お客さんに「いい木ですね」と言われた時、「ええ、元は長野県の〇〇という地域に建っていた古民家の柱として使われていたんですよ」という話ができる、それが、古木にはストーリー性があるということです。また、今ある古木は松の木が多いのですが、樹種については、建物のあった場所の地域性が大きく影響します。松が多く生えている場所で建てられた家には、やはり松の木が使われています。このように、古木は地域の文化も内包しているので、単に見た目のみで選ぶのではなく、由来や地域から使いたい材料を選ぶこともできます。

古木
古木の一本一本に、採取地などの情報が記されている

「もったいない」からすべてが始まった

古木に着目されたきっかけを教えてください。

山上:1980年代後半に、山翠舎が工務店として古材を使ったジーンズショップの内装を担当したことがあったんです。アメリカから古材を輸入して、何店舗も作りました。当時はバブル期で、そういった古い材料を使った内装は、珍しかったですね。おそらく、古材を使った内装の施工をした会社としては、日本で最初だったのではないでしょうか。私はその時はまだ中学生くらいでしたが、古材を使ったお店がかっこよかったことと、輸入物の古材がとても高価だったことは印象的でした。

そこから、古木の扱いが始まったのでしょうか?

山上:いいえ、山翠舎の古木の事業は、2006年に開始しました。私はもともと全く別の業界で働いていたのですが、山翠舎に入社して建築という業界に身を置いた時、自分の周りで解体されて処分されていく古民家の存在に気付いたのです。過去に、高価な古材を輸入して使っていたのに、自分の身近で、価値あるものが捨てられている。単純に「もったいない!」と感じましたね。木は、伐採された後も強度が上がっていきます。伐採から200年~300年経って強度が増し、材料として一番良い時期に捨てられることになってしまいます。なんとかこれを生かせないかということで、倉庫を設け、古木の買取りを始めました。買い取った古木は、この倉庫内で、現場ですぐ使える状態に加工しています。

元々使われていた釘を抜くなど、職人が一本ずつ丁寧に加工していく

古木は人と人の縁をとりもつ「ご縁木」

どんな方が、新しく作る店舗に古木を使いたいとおっしゃるのでしょうか?

山上:古木自体がまだ全然知られていないので、「古木がほしい」といって来られるお客様はほとんどいらっしゃいませんね。山翠舎が手掛けた建物を見て、「この雰囲気が好きだから」と言って依頼していただくお客様が多いです。新築なのになんとなく落ち着く、居心地の良い空間になるというのは、古木の持つ力だと思います。

古木
2018年にオープンしたゲストハウス。古木は、洋風の内装にも違和感なくおさまる

古い材料を新しい建物に使うために、大切なことはなんでしょうか?

山上:一番大切なのは、やはり気に入った材料を使うことですね。古木は、一本一本個性があるので、この倉庫まで、現物を見に来られるお客様もたくさんいらっしゃいます。実際に物を見ることで、イメージがより具体的になり、建物に対する思い入れも強くなります。そうして初めて、空間が血の通ったものになります。古木は、手間がかかる分、関わる人が多くなります。それが、人と人を結びつける力になると感じています。やはり、商売というのは「縁」がとても大切ですからね。人を結びつける木、「ご縁木」という呼び方も、流行らせたいんですよ(笑)

古木
古木は通常の木材に比べて硬く加工がしにくいため、熟練の技術が必要となる

古木で回る、「全方よし」の経済循環

古民家が減っていって、使える古木が尽きてしまうことはないのでしょうか?

山上:今、日本の空き家はどんどん増えていっています。平成30年の統計で846万戸、そのうち、戦前に建てられた古民家は20万戸を超えます。使い切る心配よりも、使い先をどんどん開拓していかなくては、貴重な古木が捨てられてしまうという状況です。今、古民家を所有している人って、ほとんどが親などから譲り受けた人たちなんですね。自分たちが住むことはできないけど、先祖代々受け継いできた家を、自分の代で壊すのは忍びない、という思いを抱えています。そういう方たちも、家が解体された後にまたどこかで役に立つことができると思うと、とても前向きに手放すことができるんです。

古材の活用が、空き家問題の解決にもつながるのですね。

山上:商売をするときには、近江商人の経営哲学として知られている「三方よし」という考え方がありますよね。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の三つの「よし」。つまり、売り手と買い手がともに満足して、さらに社会貢献もできるのがよい商売であるということです。私は、さらに「全方よし」の経済を作りたいんです。私たちが古木を買い取って再生することで、古民家の持ち主にお金が入る、古木を使ったお店が繁盛する、お店に来るお客さんも心地よく過ごせる、空き家の問題も解決できる、廃棄物が減ることで地球環境にも良い…と、いいことづくしの循環が生まれると思っています。

山翠舎

今後は、どのようなことに取り組んでいかれるのでしょう?

山上:現代は木のように見える新素材が身の回りにたくさんあります。私自身、本物の木だと思っていたトレイが、実は薄い板を貼付けたものだったために、使っているうちに表面が剥がれてきてがっかりしたことがあります。「木」と「木に似せたもの」は、似て非なるもので、素材としては全く違います。ですから、本物のよさをどのように伝えていくかは、大きな課題ですね。木の良さを広く知っていただくために、色々なことに挑戦しています。こうした当社の古木ビジネスや、持続可能な社会づくりへの考え方を体系化した「KOBOKUエコシステム」が、2019年のウッドデザイン賞を受賞しました。また、2019年10月には、長野県の「SDGs活用販路開拓モデル創出事業」の実施者にも選ばれました。古木から家具を作ることや、古民家の移築にも取り組んでいます。

SDGs
古木を使用して作った、SDGsのピンバッジ。
古木の椅子
古木から作られた椅子。古木は表面を削っても、新しい材料とは違う美しさがある

まだ詳細は未発表とのことですが、2020年の東京オリンピックに向けて、東京日本橋に、埼玉県川越市の古民家を移築するプロジェクトも進んでいるそうです。川越は「小江戸」と呼ばれ、蔵造りの町並みがのこる地域です。「小江戸」から「江戸」へ移築される古民家。ここにもまた、新しいストーリーが生まれています。

「古木のプロ」に聞いた「古木」の魅力

・雰囲気のある外見

・質の高い木材である

・ストーリー性が人をひきつける

<取材協力>
株式会社山翠舎