木を使ってものづくりをしている人たちは、どんな木を、どんな風に選んでいるのだろう。「私が、この木を、えらぶ理由」のシリーズでは、木に携わるさまざまな職業の人へのインタビューをとおして、木が持ついろんな個性と多様性を見つめていきます。
桐箱から生まれた、新しい米びつ
おしゃれな見た目と使いやすさで、若い世代の支持を集めている米びつがあります。
百貨店やセレクトショップなどでも続々と取り扱いが増え、海外からの引き合いもあるというこの米びつ。日本で昔から使われてきた木材のひとつである、「桐(きり)」が使われています。
伝統的な材料である桐と、新しいデザインを組みあわせた米びつは、どのようにして生まれたのでしょうか。
老舗がつくる、「見せる」米びつ
この米びつを作っているのは、福岡県古賀市に工場をかまえる増田桐箱店さん。桐の箱を作りつづけて90年の老舗です。編集部は、増田桐箱店さんを訪ね、藤井社長(以下:藤井)にお話を伺いました。
この米びつが生まれた経緯を教えてください。
藤井:うちは創業してからずっと、桐の箱を専門に作ってきました。その多くは容器として使われる箱なので、すぐに捨てられてしまうんです。たとえば、高級なお酒だと桐箱に入っているものがありますが、飲んだら箱は捨てますよね。手作りで良いものを作っている自信があったので「長く使ってもらえるものを作りたい」と思ったのが出発点です。そこで、先代から会社を継いですぐに、「kirihaco」というブランドを立ちあげて生活のなかで使える桐箱をつくりはじめました。
生活のなかで使える桐箱。
藤井:長く使ってもらうには、日常生活に溶け込むものでないといけない。それに、自分の同級生にも受け入れてもらえるものにしたいという想いもありました。昔は着物をしまうのに桐のタンスを使っていた家庭も多いと思いますが、今は桐の箱をイメージしてもらうのさえ難しいかもしれません。若い人にも桐を身近に感じてもらいたくて、「生活に取り入れる桐箱」というコンセプトで、キッチン用品やインテリア用品を作ることにしました。
それでこの米びつが生まれたのですね。
藤井:はい。「kirihaco」は福岡のデザイン事務所「商品企画室trythink」と一緒につくっていますが、デザインをおこしてもらうときに、キッチンに出しておける米びつをつくりたいという話をしました。米びつって、シンク下にしまっておくイメージがあったんですが、風通しの良い場所に出しておいた方がお米にとっても良いはず。出しっぱなしにできるデザインで、若い人が使いたくなる米びつをつくろう、と決まりました。
使いやすさを、探求する
ウッドワンでは桐を引き出しに使っています。米びつも桐の特徴が生かされるのでしょうか?
藤井:桐はもともと、米びつに向いた材料です。調湿効果があってお米の水分量を保ってくれますし、材に含まれる成分には防虫効果があるんです。
とはいっても、米びつは作ったことがありませんから、何をどうしたら良いのかわからなくて。まずはお米について勉強しました。お米の保存に適した環境を知るために新潟の農家さんにお話を聞いたり、稲刈りを手伝ったり(笑)そのなかで知ったんですが、お米の賞味期限って3週間程度なんですね。
3週間ですか?!
藤井:はい。だからうちの米びつは小さめサイズにしています。3週間~1か月で食べきれる量を買いましょうという提案なんです。10kg買っても、1か月に食べる量が5kgであれば、残りの5kgは冷蔵庫に入れておいていただくのが良いですよ。
他にも、お米の保存に適した環境と使いやすさを追求しました。たとえば、中を確認しやすい、透明なふた。気密性が高く、倒してもふたが外れにくい「四方桟蓋(しほうざんぶた)」という桐箱伝統の技術に、アクリルを組みあわせたものです。
キャスター付きの米びつもありますね。
藤井:持ち運びがしやすいようにと、あとから登場した商品です。風通しを良くするために、箱の下部分に切り欠きをつくっています。倒れてもふたが外れにくいよう、こちらはちょっとしたロック機能をつけました。ふたを閉めて手前に引くと、ふたの出っ張りが、持ち手を兼ねた穴に引っかかるようになっています。
容器を作りつづけてきたからこそ、kirihacoが生まれた
kirihacoの商品は、米びつ以外にもたくさんありますね。
藤井:衣食住すべてに桐を取り入れてもらえるよう、商品を増やしていっています。木でできている物はすべて作ってみたいと思っているんです。コーヒー豆の容器とか、おもちゃとか。今も、いろいろと開発中です。
ジャンルが幅広いですね。
藤井:実は、桐箱っていろいろなところで使われていて、お付き合いさせていただいている業界が幅広いんです。それがkirihacoの商品開発にすごく役立っています。新しいものをつくりたいと思ったときに、必ず詳しい方が見つかるので。桐箱を90年つくり続けてきたおかげです。新しい商品をつくるときには、いろいろな方に協力していただきながら、そもそも桐という材料が適しているのか、どういう形が良いのか、などを試しています。
藤井:うちは、桐箱を1日4000~5000個作っています。そんな会社は日本には他になくて、桐で箱を作る技術は増田桐箱店が日本一なはずです。桐箱づくりの技術を磨いてきたから、kirihacoの商品が作れています。だからこそ、容器としての桐箱も、会社にとってはとても大切なものです。
藤井:桐は昔から箱の材料として使われてきました。軽くてやわらかい桐は、手作業でも加工できる。それに、あまり良い接着材がなかった頃は、狂いが少ないという特性は重宝されたと思います。そんな時代から、桐箱は貴重なものを入れるために使われていました。たとえば、骨董品の箱は中身の証明書みたいなもの。箱があっての中身なわけです。そういう大事な役割を桐箱が担ってきたと思うと、今、桐箱に関われていることを非常に誇らしく感じます。
「桐箱の老舗」に聞いた「桐」の魅力
- 天然の調湿作用と防虫作用がある
- 軽くてやわらかく、加工がしやすい
- 狂いが少ない
〈 取材協力 〉