こんにちは。
インテリアスタイリストの さかのまどか です。
海街で暮らすようになってから、夏になると自然と帽子を手に取るようになりました。
日差しを避けるためというより、海から吹く風や木漏れ日の中を心地よく歩くために。
海へ向かう道、緑のトンネルのような小径、古い建物が並ぶ路地。鎌倉には、歩くことそのものを楽しみたくなる景色があります。
そんな日のお供になっているのがtočit(トチエット)の帽子です。
私が愛用しているのは、天然素材ならではのやわらかな風合いを持つ帽子。軽やかなかぶり心地で、どんな装いにも自然と馴染み、夏の外出に気負わず手に取ることができます。
素材の力強さを表現するために、縁のカットをあえて残しているのも、この帽子の好きなところ。かぶったときに顔に落ちる影、歩いているときに足元へ落ちる影。その輪郭まで美しく、帽子を身につけることで生まれる光と影の景色も楽しませてくれます。
長く使うほどに少しずつ表情が変わり、自分の暮らしの時間が刻まれていく。新品の美しさだけではなく、その変化まで愛おしく思えるところにも惹かれています。
そして、この帽子を好きになった一番の理由は、「掛けて飾れる帽子」というコンセプトでした。
帽子は外へ出かけるためのもの。そんなイメージがありますが、točitの帽子は、家に帰ってからも空間を彩ってくれます。
フックに掛けたり、お気に入りのヴィンテージチェアの背にそっと預けたり。壁に掛けているだけでも、そのフォルムや素材の表情が美しく、まるでアートを飾るように楽しめます。身につけていない時間も、部屋の景色に自然と溶け込み、日々の暮らしに寄り添ってくれるのです。
私の家にも、長く愛用しているヴィンテージの椅子があります。
誰かが座っている時間よりも、誰も座っていない時間のほうが長いはずなのに、その椅子はいつも空間の中で静かに佇み、暮らしを支えてくれています。
読みかけの本を置いたり、季節の枝ものを飾ったり、ときには帽子を預けたり。用途を決めすぎず、その日の暮らしを受け止めてくれる存在です。
インテリアスタイリストという仕事をしていると、「使っている時間」だけではなく、「そこにある時間」の美しさに惹かれることがあります。
家具も、器も、照明も、本来の役割を果たすだけではなく、そこに置かれていることで空間の一部になっていく。暮らしの中で長く使われるものには、時間とともにしか生まれない静かな佇まいがあります。
日々、さまざまな空間と向き合っているとその景色こそが暮らしの豊かさなのだと感じる場面が何度もあります。
だから私は、točitの帽子に強く惹かれたのかもしれません。
「帽子のある暮らし」をつくる
先日、točitが鎌倉『POMPONCAKES GARE』で展示会を開催し、ご縁をいただいて会場のスタイリングを担当させていただきました。
展示を考える中で意識したのは、「帽子を並べる空間」ではなく、「帽子のある暮らし」を想像できる空間にすること。
椅子に帽子が掛けられ、窓から光が差し込み、植物が風に揺れる。
そんな何気ない風景の中に帽子があることで、「帰ったらこんなふうに掛けてみようかな」と思ってもらえるような景色をつくりたいと考えました。
帽子そのものの造形も美しいからこそ、ひとつのアートを飾るような感覚で家具や空間の中に置いてみる。身につけるものとしてだけではなく、暮らしの中で眺めるものとしても楽しむきっかけになればと思いました。
鎌倉という街には、その世界観がとてもよく似合うように思います。
海へ向かう道、緑深い小径。昔からある市場(鎌倉市農協連即売所:通称 レンバイ)。
観光地としてだけではなく、暮らしのある街だからこそ、帽子をかぶって歩き、帰宅して椅子へ掛けるまでの時間が、ごく自然につながっていきます。
ブランドを手がけるデザイナーの千晶さんは、尾道で1948年から続く藤井製帽を家業に持ち、その場所で受け継がれてきた帽子づくりを大切にされています。
幼い頃から工場の2階にある家で暮らし、ミシンを踏む音を聞いて育ったという千晶さん。祖父母の代から続く技術や、職人の方々が一枚一枚帽子をつくる時間を受け継ぎながら、2013年にtočitを立ち上げました。
「ものをつくる」ということが、単に新しいものを生み出すことではなく、これまで積み重ねられてきたものを次へつないでいくことでもある。
そんな千晶さんの姿勢は、帽子そのものだけでなく、愛用品にも表れているように感じます。
千晶さんが愛用されているのは、モレスキンのノートとステッドラーのペン。
天然素材を使い、時間とともに表情を変えていくtočitの帽子とは少し違い、こちらは書きやすさや使いやすさを追求した、機能的な美しさを持つ道具です。
必要なものが必要なかたちで整えられている。その潔さもまた、とても美しい。
自然素材の帽子と、機能性を備えた文房具。一見すると対照的にも思える二つですが、どちらにも「長く使い続ける」という共通点があります。
そのギャップが、なんだか千晶さんらしくて面白いなと思います。
それぞれの愛用品、好きになる理由(機能性と佇まい)
私自身、暮らしの中で自然と手に取るようになったものがあります。
そのひとつが、千晶さんの帽子。そしてもうひとつが、韓紙でつくられたうちわです。
韓紙のうちわは、最近よく見かけるハンディファンや小型扇風機のように、風を送るという意味での機能性は決して高くありません。
それでも、私はこのうちわを持ち歩くのが好きです。
とても軽く、バッグにすっと入れられること。手で扇ぐたびに生まれる、やわらかな風。そして何より、使っていないときにも美しい佇まいがあります。
機能だけを考えれば、もっと便利なものはいくらでもある。それでも、手に取りたくなる。
その「必要だから」だけではない理由こそが、愛用品になるきっかけなのかもしれません。
愛用品とは、暮らしを便利にしてくれるものだけではなく、日々の景色を少しだけ豊かにしてくれるものなのだと思います。
朝、帽子を手に取ること。
暑い日に、うちわで風を起こすこと。
ノートを開いて、ペンを走らせること。
帰ってきて、帽子を椅子にそっと掛けること。
そんな何気ない瞬間は、きっと誰かに見せるためではありません。
けれど、その積み重ねが、その人らしい暮らしをつくっていく。
最近は日差しの強い日が続いているので、帽子も韓紙のうちわも、まだしばらく出番が続きそうです。9月の終わり頃まで、きっとこのふたつを手に取る日が続いていくのでしょう。
季節の移ろいとともに、愛用品との時間も少しずつ重なっていく。そんなふうに、ものと一緒に季節を過ごせることも、暮らしの醍醐味なのかもしれません。
だから私は、使い心地だけではなく、そこにある姿まで好きになれるものを選びたい。
točitの帽子も、ヴィンテージの椅子も、千晶さんのモレスキンとステッドラーのペンも、そして私の韓紙のうちわも。
それぞれに違う美しさを持ちながら、長く使うほどに自分の暮らしに馴染んでいく。
そんなものたちと一緒に時間を重ねていくことも、暮らすことの楽しみのひとつなのだと思います。
インテリアスタイリスト
雑誌・webなどのメディア・広告撮影時のインテリアスタイリング、ホテル・オフィス・商業施設などのアートワークやディスプレイのキュレーション、住宅などのインテリアコーディネート提案をしており
ハンドクラフトや植物を取り入れたインテリアの提案を得意としている。
抹茶と中国茶を勉強中。
最近逗子に移住し、東京との二拠点生活を楽しんでいます。
HP:http://coryo.co/
Instagram:@coryo.co