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Lifestyle

2023.04.28

花から食卓まで、四季の植物と綴る日々 #01

種まきから始まる春

こんにちは、フラワー&グリーンスタイリストのさとうゆみこです。

普段は、切り花やグリーン、庭など植物にまつわる仕事をしています。私の好きなことは植物や土に触れる時間。仕事もプライベートも植物だらけの根っからの植物好きです。

(都心にあるさとうさんのご自宅。リビングとひとつながりになっているベランダ。)

部屋を彩る切り花、インドアプランツ、草木茂るガーデン、食卓を彩る野菜作りなど、どれも暮らしを豊かにしつつ、私にとって欠かせないもの。中でも、野菜作りにおいては自然農法(※)をお手本とし、都心の小さな家庭菜園でいかに循環型の暮らしができるか模索中です。様々な「植物」が私の暮らしの中心にあります。

こちらでは、そんな植物たちとの暮らしをご紹介させていただきます。

※自然農法 

無施肥、無農薬、不耕起(土を耕さない)、虫や草を敵としない、自然の環境を生かした野菜作り。一般的に流通している野菜は、化学肥料や農薬を使う「慣行農法」が9割以上を占めており、他に有機肥料や有機農薬を使う「有機農法」もあるが、自然農の野菜はほとんど流通しない。

長い冬を終え、植物たちが春に目覚めるとき。

3月、4月はガーデニングや春夏の野菜作りの準備に忙しい時期です。私は毎年3月初めにはトマトやナスなどの夏野菜の種をまき始めます。種まきといっても、畑に直接まくわけではありません。夏野菜は寒さに弱いので、遅霜の心配のない5月初旬にある程度育った苗からスタートして早くに収穫できるように、部屋の中の日の当たるところや小さな温室で2か月前から育苗していきます。

3月は春といっても、関東では霜も降りる油断できない季節。加温されたビニールハウスを持たない家庭菜園では温度管理が難しく、一般的には夏野菜は種から育てずに、5月の定植シーズンに園芸店で苗を購入する方がほとんどです。たくさんの苗を必要としない家庭菜園では苗を購入したほうが効率的にはいいのですが、私はいくつかの理由で、育てる野菜は基本的にすべて種から育てるようにしています。

野菜を種から育てる理由

まず、ひとつは育てたい品種の苗が出回っていないから。苗より種のほうが品種も豊富で中には珍しいものや固定種(※)のものまであり、小さな自分の畑こそ自分に合った品種を育てることができるからです。

 

あとは、自家採種といって、育てた後に自分で種を採り、それを来年また播くことができ、自分の種だけで長年育てていくことが可能となるからです。

自分で育てた苗は安心安全な資材でできているという理由で育てる方もいます。

そして、やっぱり最大の魅力は、芽出しの小さな赤ちゃんから長い間見守りながら育てるのはとにかく楽しいということ。最終的には食すことが目的で育てているわけですが、家庭菜園の場合はとにかく育てることが面白くて仕方ない。もちろん失敗も多いのですが、そのぶん上手くできた時の喜びはひとしおです。

(種は取り寄せたり、近所で買ったり、お土産をもらったり。)

※固定種

自家採種を繰り返し、親と同じ形質が固定された種。栽培する自分も自家採種で種取していくことができることが魅力。昔ながらの伝統野菜など在来種も固定種の一つ。

(昨年秋に自家採種したオクラの種。まださやが付いたままです(笑))

その他、豆やトマト、そして、頂いた種もあります。

(発芽して3週間頃の小さなトマトの苗。)

これから約一か月後に園芸店で売られているようなトマト苗に生長します。こんなに小さくてももうふんわりとトマト独自の香りがします。

(こちら種まきしたキャベツやレタスの苗。)

こちらはすでに3月に定植しました。キャベツやレタスはある程度寒さに強いので大丈夫。

小松菜であれば、小さな種が芽を出し、茂った葉を食す。トマトであれば、さらに花を咲かせ、実になったところで収穫する。服に使うコットンは熟した種の綿毛を採取する。木の家具であれば、たくさんの年数経った樹木の幹部分を切り倒し作られていく。食卓に並ぶ肉類はたくさんの植物を餌として育っていく。

辺りを見渡してみてください。私たちの周りにあるそのほとんどが植物からできています。

では、その植物はどこから生まれたのか。

小さな種がもたらすもの

私が今この原稿を書いている、目の前の窓から見える4mにもなる大きなビワの木は、こぼれ種から大きくなったそうです。夏には甘い果実が実り、鳥が集まり、常緑の大きな葉は一年を通して私の目に優しく映ります。

小さな種は何かが作られていくだけでなく、私たちの心までも豊かにしてくれるのです。

今年、ある幼稚園でのワークショップで、子どもたちや親御さんにいくつかの野菜の種を見せて質問しました。

「これら5種類の種の中にトマトやキュウリの種があります。どれか分かりますか?」みんな最初は首をかしげていますが

「あれっ、みんなはキュウリ食べたことあるよね?」ヒントを出すと、子どもたちからぞくぞくと答えが返ってきます。

そうですね。いつも食べているキュウリの中にはうっすらと種が見えます。まだ未熟な種でやわらかいですが、収穫せずにそのまま黄色になるまで完熟させるとあの形のまま硬い種になります。

それならトマトも分かりますね。トマトはキュウリと違って完熟果なので、完熟トマトならその中に入っている種をまけば発芽させることができるのです。(※)

ゴマや豆は種そのものをいただきます。ナッツ類もほとんどが種。種は意外に身近なところにたくさんあります。

※ただし、一般的にスーパーに並ぶ野菜は「F1種」といって、固定種でないことが多いため、親と同じ形質を受け継がないものもできてしまいます。

種の魅力

何もなかったところに、魔法のように現れ、何かが作られていく。

当たり前のようにあるけれど、種って本当にすごいものだと思いませんか。

いつも苗で買っている花も、今度は種から育ててみるのも楽しいでしょう。たとえば、温度管理が必要なトマトは難しいかもしれないけれど、まずは小松菜やレタス、バジルなど簡単なものから始めるといいですね。失敗したらもう一度やってみてください。もしたくさん上手くできたら、小さなポットに入れて誰かにおすそ分けしてもいいし、植える場所がたくさんあれば、たくさん育てて収穫した野菜や花をプレゼントしても喜ばれます。

私が借りている貸農園のお友達の中には、最近はトマトやナスなどいろんな野菜の苗を購入せずに種から育て始めたようです。

「さとうさんに言われて、今年はトマトを種から作っているのよ。」

「これまではレタスを苗で購入していたなんて、もったいなかったなあ。」

みんな、種まきを楽しんでいるようで私もとってもうれしい!種まきをすることで野菜の特徴や知らなかったことがよくわかるようにもなります。

「苗半作(なえはんさく)」

昔から「苗半作(なえはんさく)」という農家の言葉があります。

苗が上手くできたなら全体の半分はすでに成功したものという意味で、苗を作ることがいかに大変であり、重要なのかがわかりますね。

さあ、先ほどの画像の小さなトマトの苗の現在の姿です。だいぶ大きくなってきましたね。あと2週間ほどで、畑に定植予定で、昼間はビニールを外して少しずつ外気に慣れさせているところです。

今年からは培養土は購入せず、播種も苗の土も自家製でやっています。まだ課題はありますが、古い土やコンポスト使っていろいろ実験している最中です。

コンポストについてはまたお話ししますね。

現在の畑の様子(4月中旬)

さて、最後に現在の畑の様子(4月中旬)を一部ご紹介します。

春に目覚めた植物たちがみずみずしい若葉を広げ、競い合うようにぐんぐん伸びている姿は何度見ても感動的です。

(5、6月に収穫予定のジャガイモの新芽。)
(実エンドウ(グリーンピース)のさやも膨らんできました。)
(昨年10月に種まきしたソラマメがやっと小指くらいの大きさに。)

空に向かって伸びることが名前の由来とされています。収穫に近づくと下向きになってきます。

(昨年秋に種まきしたヤグルマソウ。)

畑に咲く花は目に美しいばかりでなく、ミツバチなどを呼び寄せるなど生物の多様性を広げてくれ、畑は一層豊かになります。

(畑ではありませんが、自宅の庭で栽培しているシイタケ。)

原木栽培はスーパーのものとは香りが違います!マンション1階の日陰の小さな庭ですがシイタケはこんな日陰が向いています。

(本日収穫した、新玉ねぎ、長ネギ、ネギ坊主、イタリアンパセリ、リーフレタス、フキ、シイタケ。)

今ちょうど新玉ねぎの美味しい季節です。季節柄、野菜の種類が少ない時期ですが、こうやって庭のシイタケやフキも入れたらこんなににぎやかに。ネギの花芽のネギ坊主も美味しく頂きます。

ちなみにその日の食卓も。

(新玉ねぎ、ネギ坊主、シイタケは豚肉と共に黒コショウ炒め。)

新玉ねぎは甘くて辛みはほとんどありません。

(フキの炊き込みごはんとバターナッツとお出汁のスープ。)

昨年収穫したバターナッツがまだまだ活躍してくれます。

種から始まったお話が最後は食卓へ。

我が家はこんな素朴な和食が中心。自分で育てた季節の野菜があるだけでごちそうです。

種から始まったお話が最後は食卓へ。一粒の種から広がる世界は無限です。

皆さんも是非、何か種まきしてみませんか。


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