自然と動物と、ちょっとした贅沢を感じながら
小さな平屋
自然と歴史が共存する奈良県のとある街。
複数路線が乗り入れ、お店や人の行き来も多い主要駅から徒歩すぐの立地であるにも関わらず、まるで大自然に存在しているかのように落ち着きのある家。
一歩踏み入れると、時の流れも穏やかに感じさせる不思議な場所です。21坪の平屋というコンパクトながらも、窓の外に広がる木々の借景を味方に最大限の有効活用がなされ、広々と心地よい空間に暮らすお二人を訪ねました。
猫と犬と鶏と暮らす
お迎えしてくれたのは、この家で暮らす由美さん、弘志さん、そしてたくさんの動物の仲間たち。猫4匹、犬3匹、鶏7羽、思わずその数の多さにはびっくりしてしまいましたが、それぞれがただただ自然に、そこで暮らす人間との共存を心地よく感じているようでした。
小梅ちゃん13才
飼っている動物たちとは毎日のように肌で触れ、ごはんも手づくりするなど人一倍の愛情をかけてお世話をしている由美さん。それぞれの体調変化にも敏感です。パグの「小梅(こうめ)」ちゃんは、身体は元気なのに、いつからか耳が聞こえなくなってしまったそう。
「本来パグは表情豊かなんです。この子も“ごはん”とか“さんぽ”とか言うといつも目がキランとしていたのに、ある日から表情がなくなってきて、呼んでもぜんぜん気づかなくて…」
病気などの異変をみつけるのが早く、動物病院の先生からも「今回はなにかありましたか?」と、定期健診では逆に毎回問われるほど。
玄関土間に、キャットウォークと猫の脱走防止扉
この家で暮らす犬、猫は、みんな保護された動物たち。猫たちは日中それぞれ別行動をしていても、夜になるとみんなここに集合します。
真鍮のパイプバー
弘志さんが天井にDIYで取付したというパイプバーは、雨の日の室内干し用。冬は、来客時のコート掛けとしても重宝しているそう。
「かわいいし、とても便利なんです」と由美さん。
大きな窓
2021年に完成し、建築して2年半程経つというこちらの家。この大きくとられた窓から見える景色は季節ごとに変化し、家の中にいながらもたっぷりと自然を感じることができる設計です。
椅子と薪ストーブ
今年は11月に入って、夜は薪ストーブを付けだしたそう。
屋根の庇も味方に
大きな窓に加え、“庇” (ひさし)の出幅に関しても、方位が複合的に考えられ、季節ごとに必要な光が差し込むよう計算された造り。このみんなが集まるリビングダイニングキッチンは真南に面しており、暖房器具無しでも日中はずっとぽかぽか。人間だけではなく、動物たちも、本当に気持ちがよさそうです。
早朝は、外に自生する桜の木が奥の壁に映って、美しく煌めく時間があるそう。
四季の移ろいを感じる、家の特等席
私たちがお邪魔したのは11月初旬。窓の外は色濃い木々の葉が美しく、これから秋本番を迎えるというような、清々しい装いをしていました。春は桜の木が本領発揮し、冬場は雪が舞う日もあったそう。(想像するだけでわくわくしますね)ここは、いつも由美さんが座っているという特等席から見える風景。
ちなみにこの向かいにいつも座るのは弘志さん。「僕はなにもみえません。笑」と、茶目っ気たっぷりに教えてくださいました。
珈琲豆を挽く弘志さん
共同作業
お料理をはじめ、家事全般はそれぞれの係があるそう。特に担当を決めたわけではなく、お互いの得意分野を生かし、補い合うというのが自然にできた習慣。キッチンには一緒に立つのが日常のようで、お二人の何気ない会話から、ゆるぎない信頼関係が伝わってきます。
いつも飲んでいるという、お気に入りの珈琲をふるまっていただきました。
ごちそうさまでした。(おいしい…)
最高な時間
こんな時じゃないと一緒に休みがとれないからと、お二人揃って取材対応してくださいましたが(ありがとうございます)普段は休日が合わないそう。それでも、夜ご飯のときは毎日時間が合うので、一緒に支度をして、食べながら飲みながら、お話するのがとても楽しく最高な時間なのだとか。
由美さん「おいしいなぁ、幸せやなぁ、最高やなぁって毎日言ってるよなぁ」
弘志さん「静かやし星も綺麗、月も綺麗やしなぁ」
由美さん「そうそうそう、満月の時はここの真ん前にくるので、月明かりでここが青白い空間になるんですよ。
夏のスーパームーンのときは娘も一緒に、外のウッドデッキでご飯を食べて
そのあと0時くらいまでずーっとゴロゴロして、蚊に刺されて大変やったなぁ笑」
現在大学生の娘さんと三人(+動物たち)で、宴を楽しむ日々。
小梅ちゃんは取材中ずっと、由美さんの胸のなかで「ぐるぐる、ゴロゴロ」鼻が鳴って気持ちよさそうでした。
キッチンはスイージー、NZ30フラット浮造り、ニュートラルカラー(D4色)
それぞれの家族、暮らしの背景となり「食」を生み出す炊事場所。
「キッチンはこれ、って最初から言うてたもんな。ショールームには仕様と金額確認だけに連れて行かれました。笑」と、弘志さん。
「好きにしたらいいよ、妥協したらあかんよ」というのが、当時弘志さんから由美さんへ伝えていた、家づくりに対する想い。
キッチン・カップボード共に、経年変化を楽しめる取手。女性職人の作った真鍮六角つまみ、ハンドル(生地)
ニュートラルカラー D4色
この色を選んだのは「家に自然に馴染む色だったから」と、由美さん。
無垢の木の風合いを残しつつも、空間全体に落ち着きを与えるニュートラルカラーのバリエーション。暮らしに馴染み、何気ない家族の会話がこの台所からも生まれているとおもうと、なんだか嬉しくなります。
食事は発酵料理で
「ほんとに簡単なんです」と教えてくださった、いつも食べているという発酵料理。以前は市販の塩麴を使っていたそうですが、みりん、醤油、塩、酢、味噌などがあればどんな麹も調合できると気づいてからは、吟味した素材をお取り寄せするなどして、すべて手作りしているそう。
焼くだけ、蒸すだけ
「材料を買ってきたら、冷蔵庫に入れる前に袋に入れて、こうやって全部漬けて、きゅっと閉めればいいだけです。あとは食べる前に焼いたり蒸したりするだけ。味付けもいらないし、めちゃめちゃラクじゃないですか?」と由美さん。
「豚肉、牛肉は醤油麹、鳥ささみ、アジの開きは塩麴、鮭は酒粕麹…とかかな。」
いつものメニューは、もうなにも見ずともお買い物の一連作業として身体に沁みついているようです。
ある日の食卓(由美さんInstagram hy___home21より。)
「麹だし巻き玉子」「ブリの酒粕麹焼き」「カボチャとエビの発酵マヨあえ」「塩麹豆腐ととろろ昆布のお味噌汁」…などなど、バランスが取れ、健康的な麹メニューが並びます。
夜ご飯も、麹を使った絶品メニューがずらり
今年から、初めての農作業を行って作ったというお米(新米)も加わり、食卓はいつもこだわり小料理屋さんのようです。
「自分で作ったお米はやっぱりおいしい。しんどいけどね」と、弘志さん。「お米や野菜など農作物を育てる大変さを知ってこそ、食への意識もますます変わったよね」と、由美さん。
DIY手づくりの隙間収納
キッチンの後ろ側には、同色の収納庫に加えて、発酵料理でもよく使う調味料などがぎっしり仕舞われたキャスター付きの収納が。家にあった廃材を生かして、こちらも弘志さんがDIY手づくりしたものだそう。
キッチン引き出しの中
油やお鍋などは、コンロ下の引き出しの中に。
「カスタマイズできるのがいいですね。至れり尽くせり仕切りがあるとこんな風にはできないので、シンプルな造りで、こうして自分で使いやすい形に変えることができるのもうれしいです」
由美さんは、工務店に勤務していることもあり、su:iji(スイージー)の存在は、発売当初から知ってくださっていたそう。
プライベートだけではなく、お仕事としてもプロとして長年携わっているので、家づくりに関しては想い入れがあり、Instagram hy___home21や、「ムクリ」メディアでも、ご自宅の様子を詳しく綴られています。(四季を感じるキッチンダイニング。家族との会話や、人との繋がりが生まれる場所)
スモーク塗装
こちらのお宅、キッチンを含め、全体的に落ち着いた色合いベースの仕上がりとなっているのはお気づきでしょうか。
木の「黄色味」を消すために、床、巾木、窓枠などのすべての木材に、自然由来の塗料を使用し“スモーク塗装”を施しているそう。白っぽくくすんで曇りがかった表面となりますが、そうすることで家の中全体に落ち着きが生まれているようです。
「アンティークの家具も置きたいし、新しいもの、古いもの、木目の大小や色が違うものにもある程度の統一感を持たせたくて」と由美さん。
好きな作家さんのものだけを収納するというアンティークの棚
娘さんの寝室
自然の木々に囲まれているせいか、家の中で今までみたこともないような虫と遭遇したり、いろんな場所に蜘蛛の巣ができていたりすることもあるそう。それは「飼っている」と考えることにして、共存を楽しむのが日常。
現在娘さんが使用しているというこの南東の角部屋は、借景を計算しつくして家の角度を決めたことに加えて、家が少し高台に位置しているので、窓から美しい街並み風景を見渡すこともできます。
ランクル
古いものが好きだというお二人。「古いものを、大事に大事に使いたい」という想いが根底にはあって、愛用する車は“ランクル”の愛称で親しまれる、トヨタのランドクルーザー。
「古い車が好きなんですけど、ほんとに古い車だったら潰れてしまうでしょ。でもランクルは潰れないんです」
弘志さん曰く、きちんとメンテナンスを行いながら乗れば100万キロでも走るといわれているのがランクルの良いところ。
由美さんが乗っている右手前の車は、現在26年物ですが、坂道や凸凹のある道でも難なく走るそう。なんと日本ではほとんど走っていない希少車で、前オーナーである“お洒落なおじ様”から「朝日の見えるこの素敵な家に暮らす2人が乗ってくれるなら」と言ってもらい受け継いだものなのだとか。
これからやりたいこと
働きながら3人のお子さんを育てる“嵐のようだった日々“が、そろそろ終了。末っ子である娘さんも来年には就職して子育てが落ち着くので、この節目で一旦リセットして、新しくやってみたいことがあるという由美さん。
「衣食住の“住”に長年携わってきたので、次は“食”かな」
新しい拠点、DIY手づくり小屋
由美さんの見つめる先にあるこの小屋。以前暮らしていた家の廃材を生かすなどして、こちらも弘志さんがDIY手づくりしたものだそう。
「基礎から全て自分で作った小屋なので愛着があり、これから何をしようかとワクワクしています」
家がコンパクトな分、当初は物置として使用する予定だったそうですが、思いのほか立派なものとなったので、今は由美さんが新しいことを始めるための拠点場所になればと考えているそう。
「自分たちの身の丈にあったもので、多くは望んでないのです。これからも小さな贅沢をしながら暮らしていけたら」
お互いを尊敬し、尊重し合い、これまでに一度も(!)大きな喧嘩をしたことがないというお二人。“こんな暮らしがしたかった”をこれからも一緒にどんどん叶えていく姿が目に浮かびます。
(文:松岡)