Ki-Mama

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2018.11.02

木と住む知恵 #1

無垢の木は水に弱い??

木材って、本当はどんな材料なのだろう。どんな魅力があるのだろう。「木と住む知恵」のシリーズでは、知っているようで知らない、「木」にまつわるあれこれについてお話ししたいと思います。

木は水に濡れると、どうなるのだろう?

木は水に弱い?

木橋は雨ざらしですが、静岡県の蓬莱橋や山口県の錦帯橋は、40年以上架け替え工事をせずに使い続けられてきました。木のスプーンやお椀は、使って洗って乾かして、を毎日繰り返しても、全く問題ありません。

でも、木は濡れると腐る、というイメージを持っている方って多いのではないかな、と思います。そこで、実際に木を水で濡らすとどうなるのか、実験してみました。

実験に使用する板は3種類。いずれも「オーク」という木の表情を出したものです。上から見ると、どれも同じように見えますが、右端はオーク模様の木目柄シートの板、左の2つは本物のオークの集成材です。

木目柄シートの板は、細かな木片をぎゅっと圧縮して作った板の表面に、木目柄を印刷したシートを貼ったもの。今回の実験では、一般的に使われているシート材料の中のひとつを用意しました。

集成材は、ブロック状の無垢の木をならべてつなぎ合わせ、一枚の板にしたもの。身の回りにある本物の木の素材としては、まっさらな無垢のものよりも集成材の方が多いということもあり、今回は集成材を使いました。
そして、本物の木を暮らしの道具や家具に仕立てるときは、最終的に表面に「塗装」をほどこすことが大半です。より身近な現象として観察するために、2種類の塗装を施したもので実験しました。

左の集成材は全ての面を塗装してあります。今回は「全面塗装」と呼びます。真ん中の集成材は表と裏の2面のみ塗装してあり、側面は塗装していません。今回は「2面塗装」と呼びます。

左は全面塗装、右は2面塗装。
全面塗装と2面塗装の違い
左は全面塗装、右は2面塗装(塗りつぶし:塗装面)

この3種類の板が、水につけるとどうなるのか実際に試してみました。水を入れたプラスチックケースの中に板を浸して、様子を見たいと思います。

板が安定するよう、容器の中にディッシュスタンドを入れて、そこに板を立てます。

容器の中に水をたっぷり入れます。木を水に思いっきり浸すなんていうこと、したことがありませんから、大丈夫なのだろうかとドキドキしてしまいます。

この状態で、2、3日放置しました。

3種類の板には、膨らみ方に違いがありました。

2、3日後、様子を見てみると―

実験5

木目柄シートの板は、水に浸かっていた部分を中心に膨らみ、裏側の材料がはみ出してしまいました。

木目柄シートの板。左が水に浸けていないもの、右は水に浸けたもの。

2面塗装は、大きく膨らんではいませんが、少し歪んでいます。水が浸み込んだ跡も見えて、気になりますね。塗装していない側面から、水が浸み込んだようです。触ってみると、木目に沿って膨らんでいて、表面がぼこぼこしています。

2面塗装。側面から水が浸み込んだことが分かる。
2面塗装。左が水に浸けていないもの、右は水に浸けたもの。

全面塗装は、見た目には変化がないように見えますが、触ってみると少しぼこぼこしていて、木目に沿って少し膨らんでいることがわかります。

全面塗装。左が水に浸けていないもの、右は水に浸けたもの。

本物の木は、乾かせばもとに戻る。

この3枚の板を、60℃の乾燥機に入れ、2日以上乾燥させると―

木目柄シートの板は膨らんだ状態のままです。それだけでなく、側面はほとんど剥がれています。

木口が剥がれている

何もしていない物と比較すると、厚みが変わってしまったのが一目瞭然です。中身もかなり見えてしまっていて、この状態になったものを使い続けるのは難しいですね。見た目も良くないですし、引き出しやドアであれば、建付けが悪くなり開け閉めができなくなってしまいます。

木目柄シートは濡れると戻らない
木目柄シートの板。左が水に浸けていないもの、右は水に浸けた後乾かしたもの。

本物の木はどうでしょう?
乾燥機を使って強制的に乾燥させたせいか、2面塗装は一部にヒビが入ってしまいましたが、それ以外はもとに戻りました。水の浸み込み跡や、水から取り出した直後に気になった歪みが、なくなっているのがわかります。

本物の木は乾くともとに戻る
左:2面塗装 右:全面塗装。どちらも左が水に浸けていないもの、右は水に浸けた後乾かしたもの。

全面塗装の側面にあった水の浸み込み跡も、なくなりました。水に浸していない物と並べてみても、区別がつきません。他に異常な箇所もなく、引き出しやドアに使われていた板だとしても、このまま問題なく使用できそうです。

シートの板と本物の木では、膨らむ原理が違う。

そもそも、なぜ、水に浸けたら膨らんだのでしょうか?
それは、もちろん板が水を吸ったからなのですが、実は、木目柄シートの板と本物の木では、膨らむ原理が違うのです。

まず、木目柄シートの板。最初にご説明したとおり、木目柄シートの「中身」は、木片をぎゅっと圧縮して固めたもの。固める時、圧縮しただけでは固まらないので、木片に接着剤を混ぜています。接着剤のおかげで、木片同士の接着力が高まり、圧縮された状態で固まるのです。ところが、ここに水が入り込むと、接着剤の力が弱まってしまい、圧縮した木片がもとに戻ろうとして、膨らんでしまいます。

木目柄ソートの板の断面
木目柄シートの板の断面。中の素材が見える。

表面がシートなら、水は中に浸み込まないのでは?と思った方、確かに、水がシートを通り抜けることはあまりないかもしれません。ですが、シートとシートの継ぎ目には、わずかな隙間があって、そこから水が入り込んでしまうのです。水の影響で、接着剤の力が弱まってしまった訳ですから、シートの板は、一度膨らんでしまうと、もとに戻す方法はありません。

一方、本物の木が膨らんだのは、細胞が水を含んだから。木にはもともと、水を通すための管があります。これを道管と呼びますが、この道管を通って水が浸み込んでいったようです。2面塗装は塗装していない面があったので、より水を吸い込んだと考えられます。

細胞には、水分を吸収したり放出したりするはたらきがあります。ですから、水を吸って膨らんだとしても、その後、吸収した水分が細胞の外に放出されれば、細胞のサイズがもとに戻り、板の膨らみや歪みがほとんどなくなるのです。

違いは、「木口」を見れば分かる。

皆さんの家にある木目柄の家具は、本物の木でしょうか?木目柄のシートを貼った板でしょうか?本物の木と木目柄シートを貼った板との、見分け方をご紹介します。

板の側面のことを「木口(こぐち)」と呼びますが、この「木口」を見てください。本物の木の「木口」には、年輪の模様があります。丸太や切り株で見られる形の木目です。また、「木口」の木目と表面の木目がひとつづきになっています。

本物の木の木口

一方、木目柄シートの板は、線のような木目で、どこにも年輪の模様がありません。

木目柄シートの板の木口

お持ちの製品が、木目柄シートを貼ったものであれば、シートの継ぎ目は特に丁寧にお手入れしてあげてください。スマートフォンケースや、アロマディフューザー、カラーボックスなど、木目柄のシートを使用した物は身近にたくさんあります。中の素材が木片でなくても、シートの継ぎ目から水分が入り込んでしまうことは変わりありません。シートだからと安心せずに、水がかかったら、すばやく拭きたいですね。

本物の木も、濡れたら拭きましょう。湿ったままにせずきちんと乾燥させれば、ほとんどの場合、問題なく使い続けられます。今回の実験では、早く乾かすために乾燥機を使用しましたが、自然乾燥で問題ありません。むしろ、時間はかかりますが、木に負担をかけないよう、自然乾燥をお勧めします。

どんな物でも、お手入れは必要です。皆さんが使っている木目柄の製品が、シートでも、本物の木でも、きちんとお手入れをして長く使っていただけたら嬉しいです。