こんにちは
インテリアスタイリストの さかのまどか です。
職業柄、たくさんの家具や作品を蒐集していて、家の倉庫にはストックが山のようにあり ます。
実は夫も同じくインテリアスタイリストで、二人合わせると家具屋さんが開けるくらいの 在庫量。椅子だけでも50脚以上はあるでしょうか。
日用品というよりは、ただの鉄だったり、眺めて楽しむだけのものも多いです。
この連載では、そんな私たちの暮らしの中で大切にしている愛用品をご紹介していきます。「愛用品と暮らし」第3回は、手のひらで秋を感じる、道具とともに過ごすひとときをご紹介します。
秋の訪れ 光の変化
長かった夏が終わり、心地よい季節となりました。
一瞬で過ぎてしまいそうですが、この短い“間(ま)” をじっくり楽しみたいものです。
朝晩の空気が少しずつ澄んできて、窓から差し込む光の角度も変わってきました。
やわらかく低くなり、影が長く伸びる・・夏は強く眩しかった日差しも、いまはやわらかく、どこか懐かしさを含んでいます。
夜が少しずつ長くなって、暮らしのリズムにも静けさが戻ってきました。日中はまだ汗ばむ日もありますが、窓から射すやさしい光が、部屋の奥の器やカップをそっと照らすだけで、季節の移ろいを感じます。
その光が、テーブル上の茶器を照らす瞬間が好きです。
陶器の肌に淡く光が反射して、ほんの少し湯気が立ちのぼる。空気の温度や湿度まで、美しく感じられるような時間。
秋は、静けさの中に香りがある季節。
湯を注ぐ音、茶葉がふわりと開く香り、そしてカップを手に取ったときの温もり。
そのひとつひとつが、慌ただしかった日常をやさしく包み直してくれる気がします。
秋の訪れを室内にも
衣替えと同じように、インテリアにも小さな“季節の手入れ”を。
たとえば、ソファに掛けるブランケットをリネンからウールへ替えるだけでも、室内の空 気がふっと柔らかくなり温度が変わったように感じます。
カーテンやクッションカバーを少しだけ暖かみのある色味にするのもおすすめ。
そうやって季節の移ろいを“触れるもの”から感じ取ると、毎日の時間が少し特別に感じら れます。
夏の軽やかな素材から、秋の深みを感じる布へ。
リネンのクッションやブランケットはウールやツイードに替え、
透け感のあったカーテンも、光をやさしく受け止める厚みのあるものへ。
色も大切な要素です。寒色よりは、暖色を取り入れると、
光の差し方や影の落ち方が柔らかくなり、秋の落ち着いた空気にぴったり。
ベージュやブラウン、深い赤などを小さな布もの(テーブルのクロスなど)に差すだけで も、季節感がぐっと増します。
こうした素材や色の変化は、ただ空間を整えるだけでなく、
お気に入りの道具との時間をより豊かに感じさせてくれます。
肌に触れるもの、目に入るものから、秋の心地よさを味わう―――
そんな小さな工夫が、日々の暮らしをそっと特別にしてくれるのです。
そして秋といえば、やっぱり“お茶の時間”。
日が暮れるのが早くなるこの季節は、香ばしい香りや湯気の立ちのぼる瞬間が、
心まで満たしてくれる気がします。
お気に入りの茶器をひとつ選んで、その日の気分でお茶を淹れる―――
そんなささやかな儀式が、心を整える時間になります。
こうして、部屋の空気が少しずつ秋の色に染まってくると、
自然と“あたたかい飲みものが恋しくなる時間”も増えてきます。
湯を沸かし、器を選び、お茶を淹れる。
その何気ない動作のひとつひとつが、季節のリズムと重なっていくようです。
次は、そんな時間に寄り添う「お気に入りの茶器」についてお話ししたいと思います。
素材も形も、それぞれに物語があって、使うたびに心を整えてくれる存在です。
静けさを点てる — 抹茶の道具
朝の光がやわらかく差し込む時間、
湯を沸かし、茶筅を手に取る。
器の中で泡が静かに広がっていく様子を眺めていると、少しずつ心も整っていくのを感じます。
抹茶の時間は、わたしにとって“静けさを取り戻す儀式”のようなもの。
仕事の合間や撮影前に点てることも多く、茶筅を動かすリズムが、気持ちを整えるスイッチになります。
茶道具はどれも凛とした美しさがあり、手に取ると不思議と背筋が伸びます。
抹茶椀の質感、茶杓、茶筅、
どれも自然の素材から生まれたもので、季節ごとに少しずつ表情が変わります。
お気に入りの椀は、陶芸家 池田優子さんの作品。
自然をそのまま取り込んだような質感、色が特徴です。
湯気を受けた途端、光が薄くにじむように広がります。
その一瞬の静けさが、少し肌寒い秋の朝にとてもよく似合う。
香りを味わう ー 中国茶の道具
ゆっくりとした午後、少し冷たい空 気を感じる日に淹れたくなるのが中国茶です。
小さな急須にお湯を注ぎ、細やかな茶葉がくるくると動きながら開いていく。
その様子を眺める時間こそ、心をほどくひととき。中国茶では香りを嗅ぐことを『聴く』と言います。香りを聴き、茶海に移してから小ぶりの茶杯へと注ぐ。
一煎ごとに香りが柔らかく深く移ろい、その余韻が部屋全体をそっと満たしていくような 感覚があります。中国茶の道具は、ひとつひとつが小さく、掌にすっぽり収まる可愛らしさ。
磁器やガラスなど素材の違いで雰囲気も変わり、季節によって使い分けるのもまた楽しい ものです。ゆっくりとお湯を重ねるごとに、香りや味わいが変わり心も会話も穏やかに流れていく。秋の午後の光がやわらかく差し込み、いっそう心地豊かにしてくれます。
秋らしい素材で味わう、コーヒー時間
朝の空気がひんやりしてくると、自然とコーヒーを淹れる回数が増えます。
ガラスのChemexにお湯を注ぐ瞬間の湯気、木のハンドルや革紐の質感も、どこか秋らしいぬくもりを感じさせてくれます。
コーヒーの香りが漂う時間もとても好きな瞬間です。
お気に入りは、陶芸家 narumiyashiro さんのマグカップ。
無駄のないシンプルな形状に、独自の色合いが静かに映える器です。
日々の動作に自然と馴染みながら、そこにあるだけで空間の美しさを引き上げてくれる佇まいが魅力です。
そして、岩切秀央 さん のカップは、思わず触れたくなるような柔らかな肌ざわり。
手のひらにゆるりと収まるフォルムで、釉薬のかかり方も優しい。
光の角度でふわっと表情が変わり、その揺らぎが静かな時間をつくってくれます。
この器を使うときはいつも優しい気持ちになれます。
対して、narumiさんのカップは、気が引き締まる・・
そんな器による気持ちの変化も面白いです。
どちらの器にも共通しているのは、“あたたかさ”が感じられること。
ツヤツヤとした磁器よりも、少し不均一な質感のほうが、秋の光や空気と調和してくれる気がします。
たとえ同じコーヒーでも、器が変わるだけで気持ちが変わる。そんな小さな発見が、自分にとって“季節の楽しみ”です。
お茶時間で季節を感じる
気温や光の変化に合わせて、使う器や布、香りを少しずつ変えていく。
そんなささやかな“季節のリズム”を感じながら過ごす時間が、心を整えるひとときになります。
お気に入りの道具に触れ、お湯を注ぐ音や香りを感じながら、小さな区切りをつける。
お茶の時間って、そんな穏やかな“暮らしのリセットボタン”なのかもしれません。
秋の間に、あなたもぜひお気に入りの器を見つけてみてください。
きっと、日々の中に新しいぬくもりが見えてくると思います。
11月も終盤に差し掛かり、まもなく師走を迎えます。
どうぞお身体にお気をつけて、健やかに軽やかにー2025年を駆け抜けましょう🐎🎄
インテリアスタイリスト
雑誌・webなどのメディア・広告撮影時のインテリアスタイリング、ホテル・オフィス・商業施設などのアートワークやディスプレイのキュレーション、住宅などのインテリアコーディネート提案をしており
ハンドクラフトや植物を取り入れたインテリアの提案を得意としている。
抹茶と中国茶を勉強中。
最近逗子に移住し、東京との二拠点生活を楽しんでいます。
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