〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢(くさむら)を主宰する小田さん。今回の連載は「アメリカ大陸の植物旅」。小田さんの行動力の先に見えた景色とは…?

はじめに。
この旅行記は2024年の秋のお話です。現在ロサンゼルスでは大変な山火事が起こりたくさんの命、たくさんの家屋、たくさんのアートが失われています。一刻も早く鎮静することをお祈りしております。
僕の中で、地球上で死ぬまでに一度は見てみたい植物がいくつかあって、その中のベスト10に入る植物が、アメリカのカリフォルニア州に2つあります。それを観に行くチャンスが2024年の秋に訪れました。
このチャンスを逃すまいと、こんがらがっているスケジュールを調整してなんとか隙間を作り出し、この度カリフォルニアに行ってきました。
急遽決めた旅なので、弾丸の4泊6日。これ以上は会社を空けることができません。
その短い時間の中で約2000キロを走破しないといけないので、なかなかのハードな旅になりそうです。
羽田空港からロサンゼルス国際空港に着陸し、一旦ベースとなるサンディエゴに知人の車で移動。

この地域は霧が多く、晴れたと思ったらすぐに雲の中に入ったような霧に包まれたり、またすぐに強い日差しになったりと日本とはかなり環境が異なり、夏は暑くなく、冬も寒くなく植生は日本とは大きく異なります。車から見える植物たちも普段見かけないものが多く、サボテンや多肉植物なども信じられないくらい大きく育っています。

高速道路移動中に、ツーンと鼻につく臭いがしたかと思うと、知人が「この近くにスカンクがいるよ!」と教えてくれました。スカンクがちょこちょこ現れて辺りがくさい臭いに包まれてしまうらしいです。これは、カリフォルニア南部では日常だそうです。
空港からロサンゼルスの渋滞を経て、2時間弱でオーシャンサイドという街に到着。

僕はサーフィンには興味がないので、明日から一人でレンタカーで自由行動です。



何度か見かけた電線にスニーカーがぶら下がってる光景。
ネットで調べたけどちょっと都市伝説みたいなものがあるとかないとか。
アメリカ2日目。
つたない英語を使いレンタカー屋さんに行き、レンタカーをゲット。あてがわれたのは乗り慣れているトヨタ車ですが、左ハンドルの右車線走行はかなり不安。海外での初運転で緊張気味。
国際免許っていうのは、免許センターで即日発行してもらえて、助かるのは助かるけども、その国の交通ルールなどは全く勉強しないまま運転することになるので、意外にてきとうだなって思いました。
アメリカでは右折はいつでもして良いようで、赤信号でも進んじゃいます。左折に関しては大きく奥側の車線に回らないといけないですが、ついつい日本の癖で、手前の車線に入りそうになることもしばしば。もし入ってしまうと逆走して大変なことになるので、かなり集中して運転しなければなりません。ガソリンを入れるのも一苦労で、アメリカに居住していない人はそもそもクレジットカードを使うことができません。毎回隣のコンビニエンスストアに入って店員にガソリンスタンドのナンバーを伝え、必要なガソリンの量を伝えてから入れる仕組みです。満タンにしてくれっていうのもなかなか伝わらないこともありました。
そんなこんなしていると突如、ロスの友人からインスタ見たよ、との連絡があり、予定を大幅に変更してロスで落ち合うことに。
一人旅ならではの急な変更も僕にとってはとても心地よい。旅なんてのは、決まった行程で進む想定内を楽しむものではなく、想定外の驚きや感動を楽しむために行くものだ、って思ってます。
連絡してくれた友人は叢の陶器鉢を製作してくれているSyoshiさん。(ツーショット撮り忘れw)このタイミングでないと会うことができなかったので、絶妙なタイミング。
彼が教鞭をとるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)は巨大な敷地に、緑やアートが溢れる素晴らしいロケーションの大学。

樹木はかなりの迫力。日本ではあまり見ることができない樹形。日本では邪魔になるということでこのような横に広がったような樹形はあまり好まれないのです。



僕の頭の中に大きく影響している彫刻家のリチャード・セラやピーター・ヴォーコスの作品も校内に点在。美術館を訪れた気分です。
学生がうらやましい!





Syoshiさんの工房を見せていただき、新作の打ち合わせもできました。(昨日までは来ることも計画してなかったくせに)
彼の生徒さんとも話すことができました。

このような窯がいくつもあって、先生や生徒がどんどん作品を作っていくようです。

これまでは1m程度の作品しか作れなかったようです。これでもかなりの大作!もはやこれがなんなのかは不明です。

叢の選ぶサボテンの造形にみなさん興味があったようで、結構盛り上がりました。
UCLAを後にして、目的の樹木に向かってひたすら車を走らせます。すでに3時間くらい遅れています。
道中は荒野。


地平線の向こうまでクルクル回っている光景は日本では見ることができないものです。
一人旅なので、時間を気にせず車を停めては、風を浴びたり、写真を撮ったり、寝転がったりで、4時間半の道中が7時間くらいかかりました。


晩御飯は近くにコンビニしかなく、ポテトチップスとサラミとビールでした。今回は食の楽しみは封じて、植物重視。
アメリカ3日目。
早起きしてパンとコーヒーをささっと食して、翌日も車を走らせ1時間。

およそこの時点で標高1000m。
ここから徐々に標高が高くなっていきます。
今回観にいきたかった植物の一つ目は、地球上で最も長生きしている生き物(色々な数え方があるので必ずしもこの植物が一番とは言い切れない)、ブリッスルコーンパイン。
発見されたのは20世紀に入ってからで、それまでの最高樹齢とされていた木(実は翌日観に行く木)を大幅に超える樹齢ということがわかり、研究者をびっくりさせた木です。
それまでの常識では、大きい木ほど樹齢が古いとされていのですが、このブリッスルコーンパインは極めて過酷な環境がゆえに年間でも数週間しか生長できず、ほとんどの時間を休眠して過ごしているために、わずか10m程度の高さでも数千年もの長い時間生き続けることができたそうです。あまりにも生長が遅いために幹は捻れるようにうねりその模様がまた魅力的なんです。

そのコロニーで最も樹齢が古いものは4800歳を超えると言われています。その具体的な生息位置は保護の観点から公開されておらず、そのものには会うことはできないですが、そのコロニーにはとんでもないクラスの樹齢の個体がいくつかいるのでそれを拝むことができたらなと思っています。
とりあえず予習はほとんどせずに向かっているので、どのような生息地で、なんて全く調べていません。標高はどんどん高くなっていきます。
標高2000mまではドライフラワーを束ねたような、乾いた美しい景色とベージュの地肌。

日本の感覚だと、標高がある程度低いところに高木が生えていて、標高が高くなるにつれ木々の高さは低くなり、いずれ草になり、植物がいなくなるというのが常識ですが、(富士山なんて上の方は植物なんて生えてないですよね)なんだか標高が高くなるにつれ木が大きくなっていく。


この山のどこにお目当てのブリッスルコーンパインが生えているのかも知らず、Wi-Fiも繋がらず、とりあえず徒歩で雪山を登ってみる。
道もなく、看板もなく、尋ねる人もいない。
それらしき木を見つけて記念撮影。


しかし思った感じの木とはちょっと違うので、道なき道をずんずん進む。雪はどんどん激しくなってきました。グリズリー(陸上最強の肉食動物として名高い動物)とか出てきたら即死な予感もしながら。
数キロ歩いてようやく思い描いていた感じに近いブリッスルコーンパインに遭遇。雪がどんどん積もり、歩いてきた足跡はどんどん消えていく。
帰り道がわからなくなってしまわないうちに、ご挨拶。そして記念撮影。ようやくここまで辿り着けました。

樹齢の古いブリッスルコーンパインは、長い間のたびたびの落雷などにより、幹のほとんどは枯れているように見えますが、緑の小さな葉はところどころに存在しています。一年で1cm程しか生長しないためほぼ動きのない植物。富士山の山頂くらい高い厳しい環境にも関わらず何千年も生きているってとても信じられないです。
日本では縄文時代前期、アフリカではピラミッドが出来始めた頃に発芽して、それが今でも生きている命ってすごくないですか?
~後編に続く~

小田康平
〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢 – Qusamuraを主宰。広島を拠点に、2019年世田谷代田、2023年有楽町に出店。サボテンや多肉植物の販売を行うほか、ホテルやオフィスなどの植栽も手がける。代表作に2016年銀座メゾンエルメスショウウィンドウを担当。関連写真集は、「叢の視点」(2021)など多数。
Instagram:@qusamura_official