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2024.05.10

叢 - Qusamura - に聞く、多肉植物の世界 #05

知られざるサボテン園芸の世界

〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢(くさむら)を主宰する小田さん。今回の連載は「知られざるサボテン園芸の世界」。サボテンを上手に育てれば、もう毎日ストレスを抱えて生きる必要のない世界が…(?!)なにやら、いいことがあるようです。

サボテン園芸というのは、かなりマニアックな世界で、おそらく世の中の99%以上の人々には無縁の世界でしょう。しかし、近年若年層の30代くらいの若者が続々と入信wして今では各地のカクタスクラブ は大変盛況です。今回はそんな知られざるサボテン園芸の世界を少しだけご紹介します。

※カクタスクラブとは

多肉植物やサボテン(カクタス)に興味を持ち、育て方や栽培のコツなどを共有する仲間、愛好家たちのこと。50年以上のキャリアの方も多く、それぞれ独自の栽培方法でサボテンを育てています。全国には、数千人いると言われています。

この記事をご覧の方々は、最後まで読んだころにはちょっとサボテン園芸が気になってくる かもしれません。サボテンにはたくさんの属があり、その中でも刺もの、斑入り、有星類、などいくつものジャンルに分かれています。各ジャンルにはそれぞれ達人がいます。自分の好みのサボテンや栽培方法が見つかるととても面白い世界です。

そもそもサボテン園芸とは、今から300年前の江戸時代から始まっており、和蘭や万年青(オモト)などいかにも日本の園芸っぽい植物たちにも引けを取らず、古典園芸の一つとして愛されてきました。

1700年代後半(江戸後期)には、浮世絵などにもサボテンが登場しています。この当時はまだ柱サボテンや団扇サボテンなど限られた種類のみ園芸種として国外から持ち込まれていました。

「植木売りと役者」歌川国房 たばこと塩の博物館 蔵

それから300余年をかけて日本のサボテン園芸のレベルが上がり 、現在では世界最高峰のサボテン園芸種が日本で生み出されています。

僕が思うに、日本には四季があり、食べ物や景色など季節に応じて微妙に変化していきます。その風土が生み出した日本人独特の感覚は、世界的にみても繊細で、例えば園芸のような緻密な芸術は、日本人独特の感性で培われてきたのだと思います。

カクタスクラブ

サボテンの愛好家で運営されている各地のカクタスクラブは、毎月のように品評会や競会を開催し、情報交換やサボテン交換を行なっています。行われる場所は、時には市場や公民館だったり、ビニールハウスの中だったり、のどかな野原だったりします。

関東でのサボテンの品評会と競会。市場で行われた。関東、とりわけ埼玉県はレベルが高いことで有名です。
関西でのサボテンの品評会と競会。日中はハウスの中は高温になり、大変な競会でした。
信州での競会。のどかな風景とは裏腹に海外勢も含めかなりの高額で競会が行われた。

先述したように、日本のサボテン園芸のレベルは非常に高く、歴史も深いのでぱっと見、地味なお爺さんでも実は世界的に名を轟かせているという名人も多数存在し、中国やタイや台湾からは多くの愛好家やバイヤーも買い付けにきます。その方々の作出したサボテンは世界中で高値にて取引されています。

品評会では、順位が投票によって決められる。このサボテンの生みの親は国外でも名を轟かせている。

この春には様々なところでカクタスクラブによる競会が行われました。叢はこのようなところに参加して、サボテン名人たちと手競りで競い仕入れを行うこともあります。
小さなカクタスクラブでは数十人。通常は50人から200人くらいです。買う人は100株以上。全く買えない人もいます。また出品のみする人もいます。

大抵は品評会があり、その後に競会となります。会員になれば入れるので、飛び込みの場合も会費を払うと会員になり参加できます。年会費は3,000~5,000円程度で、年に何度か会報を送ってくれるクラブもあります。大きな会だと売店があることもあり、その場合は競りでなくても購入が可能です。売店がない場合は競り落とした人のみがサボテンを買うことができます。

競会では、小さなサボテンたちが一体どのような値段で、どのような勢いで売買されるかというと、それはもう常軌を逸した世界です。

画像のような立派なサボテン(大根やメロンくらいの大きさのもの)は、7桁(数百万円)で取引されることも珍しくありません。

競りを待つサボテン。かなりの高額で競落ちた。極めて高級な部類。
競りを待つサボテン。かなりの高額で競落ちた。樹齢は40年以上と思われます。

ピン球サイズのものでも、品種や出来栄えによっては数十万円で売買されることもあります。

テニスボール程度の小さなサボテンでも、樹齢は30〜40年クラス。サボテンの値段は大きさではなく、品種と美しさ。

各々が何年かかけて育てたサボテンが、数十~数百万円単位で次々と売買される光景は、ここは本当に不景気日本なのか?平均年収4~500万円の国なのか?と目を疑ってしまうこともしばしばです。

一度の競会で登場するサボテンは数百個~千個くらい 。朝から夕方近くまで行われることもあります。

叢は独自の価値観でサボテンを仕入れるので、皆が競り合うようなサボテンを高値で競り落とすこともあれば、そうでないサボテンを安値で競り落とすこともあります。しかしどうしても欲しいサボテンはライバルがいて高くなったとしても上の値段を手で示し、力づくで取りにいきます。

様々な種類のサボテンが競りにかけられる。安いものは数千円。
業界の中でもブームがあり、加熱すると一気に値が上がることもある。逆もしかり。

サボテンは光と水をうまく調整しただけで育っていく植物です。(かなりざっくりですが。細かく言えばいろんなテクニックがあります)大きな設備や、初期投資が必要なことはありません。

タイなどでは貧困層だった家庭がサボテンを販売し、大富豪になったというようなケースもよく耳にします。

そのような家に行くと大抵見たことのないスーパーカーに乗っています。ドイツ製のポルシェだって関税がかかりますので、日本の数倍の価格だそうです。

タイでは日本よりもはるかに金額の高いヨーロッパ車。家の増築や新築など、生産者のところはとても景気がいい。

各地のカクタスクラブには、人の良いお爺さんたちがたくさんいて、小さなサボテンだと、人間関係を作っていけばお土産でくれることもあったり、いろんなサボテンの栽培方法は惜しみなく教えてくれます。若い人は特にかわいがってもらえます。

ここ数年では、評価の低かった接ぎ木栽培の個体もグンと値段が上がってきました。つまり接ぎ木したての1~2年のサボテンすらとても高い値段で取引されているということです。(参考:サボテン接ぎ木の話

ここ日本では、世界最高峰のサボテン名人や園芸種が存在するので、海外から見ると宝の山に見えていると思います。

毎日ストレスを抱えて仕事するよりも、サボテンを好きになって、上手に育てることさえできれば、たくさんお金を生み出すことができるかもしれない(?!)という実に怪しいお話でした。 僕は密かに老後はこれかなと狙っています。

植物屋店主
小田康平

〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢 – Qusamuraを主宰。広島を拠点に、2019年世田谷代田、2023年有楽町に出店。サボテンや多肉植物の販売を行うほか、ホテルやオフィスなどの植栽も手がける。代表作に2016年銀座メゾンエルメスショウウィンドウを担当。関連写真集は、「叢の視点」(2021)など多数。

 

HP:http://qusamura.com/

Instagram:@qusamura_official


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