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Lifestyle

2023.12.15

叢 - Qusamura - に聞く、多肉植物の世界 #4

僕の仕事

2012年に叢という植物屋を立ち上げて、植物にまつわるさまざまな仕事をしてきました。
今回は、サボテンの鉢植えや、庭などの植栽といういわゆる植物屋としての仕事ではなく、コンセプトから考えて形にした展示物や製作物などをご紹介できたらと思います。

オリーブの鉢

現在製作しているのは、オリーブの鉢。

「コールテン鋼」という朽ちない特種な鋼材で鉢を製作しています。
直線的で人工的な金属を用いながら、多面体で仕上げることによりほんの少し有機的、もしくは自然的な位置に着地できるようデザインしています。

製作のスタートは、スポンジを感覚でスライスしていき、形を大まかに決定します。
その後、この形を3Dデータに起こし、コンピューターで鋼材をカット
溶接して組み立てます。

これを雨ざらしにして表面を錆びさせます。コールテン鋼は表面だけが錆びて、芯の部分は錆びず水が当たっていても朽ちない材料です。

曲げ加工ではなく、全て手間をかけて溶接しているので、エッジが立ち彫刻のような仕上がりになります。

このような鉢が
このようになります。

施主様からの依頼は、全体の空間が寂しいとのことで、依頼前の状況から何か変えて雰囲気をよくしたいというものでした。
空間にはいくつかの植栽があり、全体の印象に大きく関わる鉢を変えることで空間の印象を変化させられるのではと提案し、実行となりました。

結果印象は大きく変わり、このオリジナルの鉢はこの案件以降、さまざまな場所からの依頼があり量産しています。

ちなみにこのスペースは、飲料メーカー「伊藤園」さんの都内にあるカフェです。(現在同区内に移転しています。)

リトープス

東京の吉祥寺にて、まだあまり世の中に知られていない植物を、面白く見せる展示も行いました。

南アフリカのリトープスという石のような植物を標本のように植えるという展示です。

リトープスは、棲んでいるエリアの石に擬態していると言われており、白い石が多い山では白く、赤い土のエリアでは赤く、黄色い石が多い谷では、黄色く進化しています。

そのユニークで色とりどりな植物を標本に見立て展示するというものでした。

世界でも有名なリトープス研究家(日本人)の元へ赴き、展示内容を説明。その方の協力を得て、品種的に紛れのない(雑種ではない)原種を調達しました。

器は、陶芸家の元に行き、サイズなど打ち合わせして製作してもらいました。一つの展示を行うにも、さまざまなプロフェッショナルの力を借りて実現しています。

これまでに見たことのない展示の仕方で、大いに話題となり、この展示以降、国内でリトープスブームが起こり、リトープス生産者がとても儲かったとか、儲からなかったとか。

室内空間で盆栽を都会的に見せる工夫

五葉松

設計段階でデザイナーから「ここに盆栽を置けないか」という相談がありました。なんの仕掛けもない場合、このような空間で盆栽を維持することは不可能です。

そこで、設備の面で打ち合わせを行い、このような場所でもうまく育つ仕掛けを打っています。

画像ではシンプルすぎてわからないですが、実は天井部の電源の確保、LEDライトの光量と色温度の設定、土台部分内の排水溝の設置など、建築設計段階で植物を置くプランを組み入れて五葉松を設置しています。

我々植物屋が、建築設計の初期段階で植物プランを提示し、設計図の中に構造を組み入れてもらうことは結構稀なことなのです。

本来は、松の盆栽は、屋外の日光の当たる場所で育てていくものですが、光と排水を考えてやると、このような空間でも育てることができます。

あるはずのないものが、そこにあるということが人々を驚かせるのです。

トロフィーの依頼

最近では、アートやデザインのコンペティションで、ユニークなトロフィーが使われることが多いです。

トロフィーといえば、ゴルフコンペなどで使う金色メッキのカップが付いているものが頭に浮かびそうですが、アートやデザインのコンペではかなりぶっ飛んだものが用意されたりします。

ですので、アートイベントで受賞することもすごいことですが、それに伴うトロフィーのデザインの依頼を受ける ことも大変名誉なことだと思っています。

叢という会社が、デザインシーン、アートシーンでも展示をさせていただける場があり、それを理解していただいた結果、植物屋という一見分野外のところにトロフィーの依頼があったのだと思います。

脳を樹木に見立てた鉢植えのトロフィー

東京ミッドタウンアワードというコンペティションは、日本から世界へ発信する才能発掘のイベントです。すでに16回を越え、国内外の大勢のデザイナーやアーティストが参加する大きなアワードです。

トロフィーは毎年、活躍しているデザイナーなどが担当し、この年は国際的に活躍されているクリエイティブディレクターの伊藤直樹氏が担当されました。その伊藤さんからのご依頼を受け、叢が下半分である、鉢のデザインと下草の構成を担当しています。

東大の脳神経科が持つ脳の神経データを使わせてもらい、それを3Dプリンターで出力。それを樹木に見立て、鉢植えを作り上げました。

「受賞した皆様の優れた脳にも時々水をあげましょう」というコンセプトです。

ドングリの落下を表現したトロフィー

ドイツの現代美術家、ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻の概念を元にした基金が、アーティスト支援を目的とし受賞者を発表した際のトロフィーです。

ボイスの代表作である「7,000本の樫の木」から連想されるドングリを使ったトロフィーの依頼でした。

ボイスの使用した樫の木(ドングリ)と玄武岩の石柱を組み合わせたもので、ドングリが池にぽちゃんと落ちた動きをアクリルと泡で表現しています。

これからの僕の仕事

その他にも、植物をどのように見せたら、皆さんの注目を得ることができるか、またより面白いと思ってもらえるかを考えています。

その仕掛けは、植物だけでは限りがあるので、コンセプトやステージ、素材など工夫して最大化を狙っています。

そうした仕掛けを取り入れた新店が広島にオープンします。現在製作中。
2024年1月15日目標で頑張っています。

新しいお店は、街中で利便性がある場所、とは程遠い場所なので、せっかくお越しいただいた方にはできるだけしっかり楽しんでもらえたらなというのが、最大のコンセプトです。

通常、コストや手間がかかりすぎるようなアイデアは、店を作る上で敬遠され省かれてしまうことが多いです。関わってくれる職人さんにはかなり無理を言って、細部までこだわって作っています。逆にこだわらない部分は大いにお金をかけていません笑

ですので場所はかなり分かりづらいところですが、広島県広島市西区竜王町7−22です。
車でしか来れそうにないです。駐車場あります。

ぜひお越しいただきたいです。

植物屋店主
小田康平

〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢 – Qusamuraを主宰。広島を拠点に、2019年世田谷代田、2023年有楽町に出店。サボテンや多肉植物の販売を行うほか、ホテルやオフィスなどの植栽も手がける。代表作に2016年銀座メゾンエルメスショウウィンドウを担当。関連写真集は、「叢の視点」(2021)など多数。

 

HP:http://qusamura.com/

Instagram:@qusamura_official


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