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2023.09.27

叢 - Qusamura - に聞く、多肉植物の世界 #3

海外での植物調達(バンコク)

〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢(くさむら)を主宰する小田さん。連載第3回目は「バンコクでの植物調達」。近年の植物園芸界の事情も交えて、仕入れの目利きのポイント、叢的視点についてわかりやすく教えていただきました。東へ西へ…車で郊外を走るなか、お目当てのものと巡り合ったタイミングとは…?

今回は今年8月末に訪れた、タイの首都バンコク でのサボテン仕入れのことを書いていきます 。

コロナ期は一度も海外に出られませんでしたが、通常だと海外は年に1〜2度ほど行きます。コロナ期を終え、昨年から通常通り毎年行くようにしています。バンコク以外は、ヨーロッパや韓国などで仕入れを行うことが多いです。

厳しい輸出入制限

サボテンの故郷は、アメリカ大陸です。特に種類や流通量の多い玉サボテンと言われる球状のサボテンは主に中米から南米にかけて生息しています。

しかし、原産地と輸出輸入を手がける園芸国は異なります。ワシントン条約という動植物の輸出入を規制する決まりがあり、海外の貴重な植物、特にサボテンは自然界で育っているものに関して厳しく輸出入の制限があるため、原産地(球)サボテンを購入するのは今ではほぼ不可能 だからです。

サボテンで言えば、原産地は上記の通りですが、サボテンを生産し、それらを輸出している主な園芸国は、タイ、韓国、中国、イタリア、スペイン、オランダなどが有名です。

標本サボテンを輩出する日本

そして、これらの国で扱う元となる標本サボテン を輩出している国が日本です。

園芸上の価値観の指標となるものは日本のサボテン園芸が作り出しました。(そこから生まれた「NISHIKI」や「DARUMA」、「ONZUKA」という呼び名は世界共通語になっています。)

元々は、現地のサボテンを採取したり、種を採ったりして日本にサボテンがやってきました。
それらをベースにして、日本国内で交配がおこなわれ数多くの日本発の新品種が作出されてきました。そしてサボテン鑑賞の価値観も同時に日本で醸成されてきました。アジア諸国ではそれらを日本から受け継いでサボテンの品種改良をするところが多いです。

というわけで、日本を拠点としている叢では主にサボテン調達は国内で行うのが手っ取り早いのですが、その日本からここ10年そこらで輸入調達したサボテンをさらに進化させ、発展目覚ましいと言われているバンコクにこの度視察と調達を兼ねて行ってきました。

バンコク視察

元々日本から輸入されたきたサボテン。日本国内で入手出来ないものがあれば、高値でもこれらを買い戻すこともあります。

既に国内から流出してしまい、日本国内では入手が困難な血筋を持つタイプのものは海外から逆輸入するしか調達できないものがあります。近年強力な資金力で多くの日本国内で生まれた貴重なタイプのサボテンが中国やタイなどに流出してしまっています。それらの多くは日本国内ではもはや調達出来ないので、流出した時の価格の数倍の金額で取り戻さないと、入手できないのです。

タイの温暖な気候を利用して、日本で作出された株からさらに進化させた品種を作っています。

東へ西へ

バンコクの郊外を毎日東へ西へ、朝から夕方まで車で走ります。
サボテン農家ばかりではなく、道中こだわった農家があればその他の植物も見ていきます。

バンコクの郊外には多くのマニアックな愛好家がいます。それぞれの植物にこだわった生産者のハウスには、かなり貴重なものが眠っています。

NISHIKI「錦」

サボテンにしても、その他の多肉植物やアロイド(サトイモ科の植物)類にしても、とにかく人気があるのが、「錦」と言われるもの。これは錦鯉の錦と同じ意味で、突然変異で葉緑素が抜け落ち、鮮やかな色の葉や茎が出るものを言います。この「錦」という価値観も日本発祥と言われており、「NISHIKI」という言葉は国際的に通用します。現在タイではあまりに錦ブームが加熱して、同時に価格も過熱しすぎているので、残念ながら叢では仕入れることはありません。

ここ数年のコロナ禍ではタイから発信されたNISHIKIブームで多くの日本国内の園芸マニアは踊らされたことでしょう。

サンセベリアというアフリカ原産の植物。これらはサンセベリアの園芸種の錦です。
軽く7桁で売買されています。
アンスリウムの錦。右下に見える9cmポットの小苗でも何十万円。

植物園芸界でもかなりマニアックな世界があります。

例えば、ポケモンのカードが1000万円というニュースがありますが、一般の人にとっては何の価値もないものが、一部のコアな人にとっては、ものすごい価値があるものがあります。そのように植物園芸界でも、かなり限定的な世界でとてつもなく高価な植物になることが稀にあります。「錦」もその一つで、それに取り憑かれた人たちはその個体に何百万、何千万の価値を見出します。しかし、それは加熱しすぎた価値観であるので叢では取り扱いしません。冷静にその植物の価値を捉え、見合う価値であれば取り扱うし、加熱しすぎていれば、傍観します。

そのようなとんでもない加熱は昔から園芸業界ではよく起こります。

庭には、バナナの錦。葉っぱも錦だけど、果実の表皮の色素も変化しています。味は同じだとか。
そしてサボテンの錦も。

仕入れの叢的視点

今回の仕入れで、目標としていたのは、ギムノカリキウムという南米原産の玉サボテン。栽培方法がタイの気候にぴったりなので、日本よりもはるかに進化しています。当然南米には原種しかいないので、このようなギムノカリキウムが存在するのは今のところほぼタイのみ。見たことのないタイプのギムノカリキウムがずらり。人気種は前述のサンセベリアやアロイドの錦とも見劣りしない価格で取引されています。

僕のお目当ては、そのギムノカリキウムの中でも叢っぽいグロテスクで難解な姿をしているもの。得体の知れない不思議系を探します。

今回で7回目のバンコクでしたが、こんなにたくさんのギムノカリキウムを生産している生産者にたどり着いたのは初めてです。アテンドしてくれた方に感謝。

ほとんどの株が生長点異常を起こして元々のサボテンの形を留めていないもの。色も紅葉気味で褐色のもの、生長旺盛で黄緑色のものなど様々。

※生長点異常とは

植物が通常1点である生長点を複数作ったり、線上に作ったりすることで、植物の造形が変化します。これによって変化した形は自然界ではとても珍しいために、園芸界では貴重とされています。

これらを存分に仕入れることが出来て、また来年以降の見通しもついたので、これで今回のサボテンの仕入れは終了。

そして最後に時間が余ったので、蘭の生産者のところへ。

バンコクの生産者の規模はどこも凄まじく広大で、最後に行った蘭の生産者の生産現場も限りなく広い。
見たことのない花だらけ。蘭の種類は植物の中で最大級のグループの一つで、数万種とも言われています。

あまりに広く、同行者が行方不明になったので、ハウス外を散策。

遭遇

そんな時、庭に植えてあったサボテンに遭遇。
このサボテン は、実は10年前にバンコクで仕入れたっきり、その後輸入出来ず、ずっと探し続けていたサボテンでした(写真はその時のもの)。

園主に交渉し、この巨大サボテンの枝を何十本も切らせてもらいました。その数分後、スコールが。もしスコールが30分早ければ、庭の散策もせず、巡り会うことはなかったです。ラッキーでした。

造形が面白く、まるで溶けているかのような風貌をしているサボテンです。生長点異常を起こしており、通常思い描くサボテンの風貌とはかけ離れており、かつ、生長がとても遅いために緻密な姿になっています。生長が遅くギュッとしまったサボテンは性質が強く、枯れにくいのです。
ワシントン条約により、何年も輸入を諦めていましたが、今回書類を揃えることができ、正式に輸入できることになりました。

進化し続けるタイ

今回のバンコク出張では、戦後から日本で進化してきたサボテンを超えるような進化を遂げたサボテンを発見することができました。それはタイ人の情熱あるサボテンへの想いと、タイの温暖な気候が生み出したものです。おそらく今後数年間はまだまだタイで進化し続けていくと思います。
その中で生み出された面白いサボテンの中から叢らしいサボテンを調達することで、しばらくは日本でタイ作出のユニークサボテンを叢サボテンとして紹介できると思います。
しかし、いつの日か日本の生産者たちが生み出した日本発のサボテンが面白いと言える時が来ることを期待しています。

今回輸入した植物は、数百株。無事9月に荷受けできることを願います。
来春には叢の店舗にお目見えします。お楽しみに。

植物屋店主
小田康平

〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋、叢 – Qusamuraを主宰。広島を拠点に、2019年世田谷代田、2023年有楽町に出店。サボテンや多肉植物の販売を行うほか、ホテルやオフィスなどの植栽も手がける。代表作に2016年銀座メゾンエルメスショウウィンドウを担当。関連写真集は、「叢の視点」(2021)など多数。

 

HP:http://qusamura.com/

Instagram:@qusamura_official


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