手づくりおやつの幸せな記憶。
歴史の深さと豊かな自然が調和する、奈良県葛城市。大阪中心部からのアクセスも良く、ベッドタウンとしても人気の街です。
約15年前、のどかなこの街に家を建てることを決めたという、ちひろさんを訪ねました。
玄関から
明るい室内
「このあたりは利便性も良く、当時はもっともっと自然がいっぱい。家を建てるならここだ、と思いました。近くに親戚も友達もいなかったんですけど、2人ともピンときて…」
「まいにちのやさしいお菓子作り」をテーマに、できるだけ体と地球にやさしい材料を使用して無理なくゆるく。つくる人・食べるひと、みんながやさしいキモチになれる、より良い循環を心がけて…。
もともとお菓子作りは趣味でやっていたそうですが、大学を卒業したあと進路に迷っていた時に「やっぱり作ることが好き」と自分を見つめなおしたちひろさんは、改めて専門学校で学び、実際にカフェでも働いて、調理師免許も取得されたようです。
イベントや間借りカフェなどにも出店しながら、主にこのご自宅で、お菓子作り初心者に向けて少人数制の単発レッスンをされています。
お菓子と夢と幸せな記憶
「子どもとお菓子作りをするのも、ずっと夢だったんです。一番下の女の子が作るのが好きなのと、上の子はお料理にも興味があるみたいで…」と、ちひろさん。
自身が幼少の頃、母親につくってもらったおやつのことを今でもずっと覚えているそう。
当時つくってもらったのは“混ぜるだけのプリン”のような簡単なものだったそうですが、自分の子どもたちにも、そんなつくりたてのいい匂いを“幸せな記憶”として残してあげたい、そんな想いが原動力としてあるようです。
約15年前、竣工時のキッチン
15年の時を経て。
家を建ててお菓子教室をはじめ15年経った今でも変わらずずっと、家族の背景として存在する木のキッチン。
今回は特別にいつものお菓子教室同様のご準備をいただき、木のぬくもりあふれる自然素材いっぱいのご自宅についてお話をお伺いすることができました。
小さなボウルに、計量済みの材料。
(こんなふうに小分けに材料が整えられていたら、自然と“やってみたい”気持ちが。生徒さんひとりひとりを想う愛情が伝わってきて、心が丸くなりますね)
家づくりのこと
当時のウッドワンカタログと、スクラップブックは今でも保管。
「結婚前からインテリアが好きで、すでに家のイメージはあったんですが、雰囲気を伝えやすいようにスクラップしたんです」と、ちひろさん。
ご夫婦が、家探しの際に見つけたこの土地は、もともとは建売住宅が立つ予定だったそう。
「まだ何も建っていない状態だったので“好きなように言ってもらったら…”と工務店さんに言っていただいて。本当にたくさんワガママを聞いていただきました(笑)無垢の床にしてくださいとか、このドアにしてくださいとか。室内窓は雑貨屋さんにガラスをオーダーしたり。好きなものを詰め込みました」
オーブン付きのキッチン
「ガスオーブンが使いたかったので、ビルトインタイプのものを付けてもらいました」と、ちひろさん。
予熱のためオーブンを温めていると、前に焼いたお菓子の香りが再熱されて、もうすでに部屋中がいいにおいに。
15年経ち、オーブン庫内の照明が切れてつかなくなってしまったようですが、今でもフル稼働中です。
優しい光に照らされる、朝のキッチンは“ものすごく綺麗“なのだとか。
海外でみた木のキッチン
「もともと人工的なものがあまり好きではなくて。海外に行ったときにみたキッチンがすごくかわいくて。その印象があったから、キッチンは絶対に“木”がいいって思っていました。海外にあるのだから、日本にもないわけがない、って探しましたね(笑)」
(ちひろさんが、ホームステイ先で実際にみた、木のキッチン)
当時はSNSもそこまで主流ではなかった時代ですが、インテリア雑誌でみかけてウッドワンを知り、ショールームにも足を運んでくださったようです。
「使い勝手もいいし、今でも大好きなキッチンです」と、ちひろさん。
教室にきてくださるかたと一緒にキッチンに立つことも多く「木のキッチンいいなあ」「家に帰ったらキッチンを片付けよう」「洗いものが楽しそうだね」などと言われたりも。
焼きたておやつ。部屋中いいにおいで充満
「お菓子教室は、やっぱりすごく楽しいです。毎回幸せな気持ちになりますね。私は普段から基本は家にいて、教室の準備をしたり、レシピをつくったり。来月の試作をしたりマルシェの準備をしたり…地味な作業ですけど、毎日好きな場所で、好きなことをやらせてもらっているという感じです」
レッスン中にお菓子を焼いている時間は、ダイニングでゆったりティータイムをしてもらいながら、あらかじめ撮っておいた動画で説明をするなど、教室を常にひとりでまわす工夫もされています。
ちひろさん曰く、当時よくみていた雑誌で“さらっと”紹介されていたという木のキッチン、スイージー。その流れで、ウッドワンの無垢シリーズ、ピノアース(当時はジュピーノ)の存在も知ることとなったそう。
「今は、もっと探しやすいんでしょうね」と、ちひろさん。
新築時
飴色に変化した床。
「見ての通り無垢の床は、傷はつきやすいです。最初は凹みを修復させるためにアイロンの蒸気で…とかいろいろやっていたんですけど、もう追いつかなくなって。でも、まあもういいかなって」
経年美化
「経年で色が変化することは最初から知っていて、それもいいなあ、とおもっていた理由の一つです。いい色になるのは、思っていたより早かったですね」
年月という調味料
新築のころは、眩しいほどに白く清々しかった無垢の床や扉も、年月という贅沢な調味料でゆっくりと飴色へ。この美しい変化の正体は、木の中に眠る「油分」。
森から木が切り出され、形を変えてもなお、その内に備える豊かな生命の記憶は残り続けます。
時を経て、木の中心部からじわりと滲み出る油分は表面へ浮き上がり、空気に触れ、光を浴びることで、天然の良質なワックスへと姿を変えていきます。
「古びる」のではなく「深まる」。
木が持つこの力強い生命力は、暮らしに「育てる楽しみ」を与えてくれそうです。
いつものキッチンで、手際よくつくっていただいた"鳥がさえずるほどおいしい"と言われるハミングバードケーキ
ちひろさんInstagramより。
家族とともに
竣工時からは約15年が経過していますが、ご主人が単身赴任となって以来、実はこれまでずっと、家族全員が揃って共に…という暮らしの変遷ではなかったようです。
「ここに引っ越してから、ほぼワンオペ育児でした。最初の頃は、“泥棒がきたらどうしよう”とか、主人がいなくて不安に思うこともありましたね」と、ふり返ります。
時を経て、成長したお子さんが、ごはんやお菓子を作ることもあり、ちひろさんを支えてくれる存在に。
DIYのパーテーション。
「ゆくゆくは、自分のカフェをひらきたいんです」というちひろさん。
広すぎず、狭すぎない、カフェも“ワンオペ”を基準に。
15年前、家を探し出したあの日と同じように。ちひろさんが見つめる先に、周囲を甘く優しく包み込む場所との出会いは、もうすぐそこまで来ている気がします。
(文:松岡)