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2018.09.19

私が、この木を、えらぶ理由 #01

パインとプロダクトデザイナー

木を使ってものづくりをしている人たちは、どんな木を、どんな風に選んでいるのだろう。「私が、この木を、えらぶ理由」のシリーズでは、木に携わるさまざまな職業の人へのインタビューをとおして、木が持ついろんな個性と多様性を見つめていきます。

これがスピーカー?木から生まれた WAKU speaker

2018年春、国内最大のクラウドファンディングサイト「Makuake」に、誰も見たことのないようなスピーカーが発表されました。

スピーカーに本来あるはずの黒い網がなく、そこにあるのはシンプルな木枠だけ。この木枠には、針葉樹の「パイン」が使われています。WAKU speakerと名付けられたこのスピーカーは、わずか2ヶ月で目標の5倍以上もの支援金を集め、クラウドファンディングで成功を収めました。

一体どんな発想から、こんなスピーカーが生まれたのでしょうか。

プラスチックの量産品では出せない“一点もの”のワクワク感

WAKU speakerをつくったのは、若きデザイナーであり、起業家である小山皐さん。 ふだんは東京を拠点にしている小山さんですが、クラウドファンディングでの成功や、こつこつ重ねてきた営業活動によってご縁がつながり、高知県四万十町に工場を構える「ヒノキカグ」といっしょに、本格的なものづくりを始めようとしています。 moku:me編集部は、小山さんといっしょにヒノキカグさんを訪ね、いろいろとお話を聞かせてもらいました。

そもそもどうして、木のスピーカーをつくろうと思ったのですか?

小山:もともと起業したいという想いがあって、学生時代から起業につながりそうなタネを探していたんです。そんな時、かつて大手メーカーでスピーカーをつくられていた教授にお話を聞いて、面白そうだなと興味を持ちました。それと同時に、いま世に出ているスピーカーへの疑問が湧いてきたんですね。ほとんどのスピーカーは、金型をつくって樹脂を流し込んで、同じかたちのものが量産されています。それで「インテリアにもなりますよ」と言われても、なんだか説得力ないなって。

説得力がない。

小山:ぼくは、インテリアって“一点もの”だという気がしています。たとえば、キッチンだと20年くらい使い続けるという人もたくさんいると思うんです。ユーザーさんからすると、スマートフォンよりも遥かに長く付き合うものですよね。そもそもプラスチックって、製品寿命が短くて数年しかもたない。それで「インテリアです」って言われても何だか嫌だなっていう感覚があって、「インテリアをめざすなら、木を使ってスピーカーをつくれないか」という発想が出発点になっています。

木材だと、おなじ図面からつくったものでも一つひとつ表情が変わるし、長く使えますよね。

小山:インテリアとして考えたときに、木を使ったほうが一点ものの感じに近いし、一点ものって買ってワクワクするじゃないですか。「自分がこれをどうやって使っていくんだろうな」とか。そんなワクワク感がユーザーの方に伝わればいいなと思っています。

木枠のスピーカーは、インテリアとして独特の存在感を漂わせている。ゆくゆくはアンプも筐体の内部に入れ込んで、純粋に木枠しか見えない構造をめざしているそう。

ピアノにも、バイオリンにも、木が使われている

スピーカーにとって大切な「音」の面では、どうなのでしょうか?

小山:ピアノやバイオリンも弦と木でできているように、木って音を振動させやすくて、しかもきれいな音が出るんです。たとえば、紙も振動して音が鳴りますけど、音にヒビが入りますよね。スピーカーにも紙の素材が使われることがあって、ヒビが入らないように上から樹脂で硬くしてあったりします。でも、木材だとそういう加工もいらなくて、なおかつスピーカーの磁石とコイルの振動をそのまま味わうことができるんです。

やわらかくて、精度の高い加工ができるパイン材

木のなかでも「パイン」という樹種を選んだのは、なぜですか?

小山:パインって、やわらかくて、とても加工しやすい木材なんです。デザインはスケッチだけでは決まらなくて、実際に立体にしてみないと分からないことがたくさんあります。そこで、モックアップというものをつくっていろいろ試行錯誤するんです。

試作をくり返すのですね。

小山:はい。モックアップ用のプラスチックやスチール素材もあるのですが、そうすると木でつくるものと、どうしても違ったものになります。想定した素材で何個もデモ機をつくりたい。でも、制作環境は限られている。そんな状況のなか、パイン材には本当に助けられました。

そんなに加工のしやすさが違うのですか?

小山:全然違いますね。ノコギリでも、ある程度の精度を出して切ることができるし、接着もわりとかんたんにできるんです。やわらかい分、素直につくり手の意図に応えてくれて、自分のめざす完成形に辿り着きやすい素材だと思います。それに、パイン材って木材のなかでは安価で求めやすい部類に入るのですが、きちんと良さを引き出せばコストを抑えながら高精度なものをつくれるんじゃないかと考えています。

もともと在籍していた大学の制作スペースでWAKU speakerの開発に取り組んだという小山さん。ヒノキカグの制作現場にも興味津々。

水に強いパイン材は、スピーカーの可能性を広げてくれる

デザイナーが手を動かしながらものをつくるうえで、パインという木材の特性に助けられたのですね。

小山:もうひとつ、パイン材の良いところは、油分を多く含んでいるので水に強いんですね。そのうえ、油性の塗料やワックスを染みこませやすい木質なので、WAKU speakerでも水に濡れてしまっても大丈夫なような加工を施しています。そうすると、脱衣所や水まわりでも音楽を楽しんでもらえる。

おふろの時間に音楽を楽しめたら、心地いいでしょうね。

小山:ふつうのスピーカーって湿っぽいところに置けないんですけど、パイン材なら可能になる。そういう意味でも、スピーカーの常識というものが、パイン材を使うことによってちょっと変わるんじゃないかという想いがありました。

いまの家の雰囲気に、調和する明るさ

インテリアの面では、パインという木はどうでしょうか?

小山:最近だと、ウォールナットのような濃い色の木材が使われる傾向があります。でも、いまの家ってわりと明るくつくられているので、ダークな色味が似合う家って実は少ないんですね。壁も、ほとんどが白ですよね。そんななかで、木材だけ黒くて重厚感のあるものを入れても、不調和を生んでしまうこともあると思います。 いまの家に合う素材って何だろうと考えた時、パイン材が実は合うんじゃないか。WAKU speakerってパイン材の明るい色が部屋と調和しつつ、そこに影が落ちることで不思議な立体感が生まれて、だまし絵みたいな面白さを醸し出せないかと狙っているんです。

音が鳴らなくなっても、そばに居続けられるもの

WAKU speakerを、ユーザーのみなさんにどんな風に楽しんでほしいですか?

小山:江戸時代、一度買ってもらった服は、灰になるまで一生保証するという呉服屋さんがあって、流行したそうなんです。ぼくはその話を面白いと思っていて、できるだけ長い間、修理にも対応しながら、使い続けてもらえるスピーカーになってもらいたいと考えています。 一生とは言わなくても、たとえば、音が鳴らなくなっても本棚として使ってもらったり、花瓶を飾ったり、さりげなくそばに居続けるような存在になってもらえたら嬉しいですね。

小山さんのお話から、木と人、物と暮らしの関係をあらためて考えさせられます。クラウドファンディングで注文が集まったWAKU speakerは、夏から発送がはじまり、支援者のみなさんの手元へと巣立っています。
さらに、小山さんとヒノキカグとのものづくりが2018年夏からスタート。素材は、パインから四万十ひのきへと受け継がれました。パインとヒノキは同じ針葉樹で、共通点も数多く持っています。小山さんのデザインコンセプトをしっかり受け継ぎながら、新たなものづくりがはじまろうとしています。

ヒノキカグとのものづくりへ

ヒノキカグは、四万十町森林組合から生まれたブランド。もともと地元のヒノキのなかで、木材としては扱いにくい短いものや曲がったものを何かに生かせないかという想いから、ヒノキの集成材を使った加工を広げてきたそうです。
現在、その加工技術は高く評価され、個人住宅から企業、公共施設まで、さまざまなオーダーが全国から四万十町へと舞い込んできます。

副工場長の高橋康太さんにも、木を使ったものづくりについて、お話を伺いました。

高橋:ヒノキカグの活動をはじめてから、こどもたちの未来につながることをしたいと思うようになりました。今のこどもたちって、木のものにふれたことがないという子がすごく多いんですよ。この辺りでも、山にはたくさんの木があるのに、そういうものを全然身近に感じていない。できるだけ木にふれてもらえる機会をつくりたいという想いで、こども向けの製品をつくるようになりました。

ヒノキの香りがただよう建物のなかには、こども向けのおもちゃや家具がたくさん陳列されている。
ヒノキカグのまわりには、四万十ひのきを育む山々が連なっている。

高橋:はじめは自分たちで製品を考えていたのですが、やがてデザイナーの方にも入ってもらって、私たちの取り組みや山のことも見てもらったうえで、ワークショップのようなかたちで、ものをつくるようになりました。

デザイナーと一からつくりあげた椅子。椅子を重ねるとき指を挟まない工夫など、こどもへの想いが詰まっている。

高橋:実は、はじめは見向きもされませんでした。ヒノキは家具にはならないだろうと言われたんです。最近でこそ針葉樹でつくられる家具も出てきましたが、広葉樹の家具がほとんどなので。3年ほど厳しい時期が続きましたね。こどものものをつくるようになってから、だんだんと広がっていきました。

木材の状態は、一つひとつ人の目で見極める。
ヒノキカグの工場では、若いスタッフも活躍。地域の雇用もささえている
スタッフの一人が拾ってきたという猫。そのカゴもまた、木でつくられている。

ヒノキも、パインも、人にやさしい木材

高橋:小山さんと出会ってWAKU speaker を見たときは驚きました。もともと自分も音楽が好きなのですが、こういうスピーカーは見たことがなかったですし、スピーカーって“重たい木”でつくるというイメージがありました。広葉樹のどっしりとした木でつくる。ヒノキやパインはどちらかという軽い部類なので、はじめは音的に大丈夫なのかなというイメージはありました。でも大丈夫だと分かって、ヒノキでこのスピーカーをできたらすごく面白いなと思いました。

高橋:ヒノキもパインと同じように、とてもやわらかくて、それゆえに手ざわりがすごく良い木材です。これも針葉樹に共通する特徴ですが、家具にしたときに軽いんですね。椅子にしても、広葉樹とは比べものにならないくらい軽くなります。年輩の方や、こどもにとっても、持ち運びが負担にならない。小山さんがパイン材でつくったスピーカーの魅力を受け継ぎながら、私たちが得意とするヒノキを使った加工を生かして、良いものをつくっていきたいと思います。

木から生まれたWAKU speakerは、四万十ひのきの里で、新しい旅をはじめる。

これから、WAKU speakarがどのような進化を遂げていくのか。小山さんやヒノキカグさんがどのようにものづくりの可能性を広げていかれるのか。moku:me編集部では、みなさんの活動をこれからも見守っていきたいと思います。

「オーディオデザイナー」に聞いた「パイン」の魅力

  • やわらかく、加工がしやすい
  • コストを抑えながら精度の高いものづくりができる
  • 油分が多く含まれ、水に強い
  • 明るい色味は、現代のインテリアに合わせやすい
  • 軽くて、家具にしたときに持ち運びやすい

〈 取材協力 〉

WAKU speakar
https://www.makuake.com/project/waku-speaker/

 

ヒノキカグ
http://hinokikagu.com